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灰色蝶にウロボロス

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 私は前世を覚えているように生まれ変わった。そういう風にしたはずだった。
 それは私もわかっているのだけれど。
「とりあえず思い出す思い出さないは置いておいても、限野言ったでしょ? これからどんどん来るって。それってさっきの影みたいなのがでしょ? 私は一体どうやって自衛すればいいのよ? 四六時中一緒にいるわけじゃないんだから限野がいない時、私は自分の身を守る手段がないじゃない」
「そう言えばそうだなぁ」
 あからさまにどうでもよさそうな態度だ。
 そもそも誰のせいであんなわけのわからない物から自衛しなきゃならないような事態に陥ったと思っているんだ。
「元をただせば限野が餌を撒いたりしたからこんな目にあったんだからね。責任とって無力な私を守る手段を寄越しなさいよ」
「そんな胸を張って無力って……」
 呆れ顔で限野が呟いたけど気にしない。
「限野は魔術だとか、前世でやったことが今もできるのかもしれないけど、前世が何であっても今の私はそんなことできないの。だから何とかして」
 下手に出るのは癪だったのでできるだけ高慢に言ってやる。
 普通だったら気分を損ねそうなものだけれど、やっぱり普通じゃない限野は面白がるように笑った。さすが普通じゃない人間。
「んーそれじゃあ」
 限野は少し考えるようにしてからスクールバッグから黒マジックを取り出した。さらにその辺りをきょろきょろと見まわしてから、その辺りに落ちていた小石を手に取った。そしてそれに黒マジックで何かを書き始める。
 一体何をしているんだろうと思いながらもその行動を見守っていると「出来た」と声を上げて限野は私にその小石を差し出した。
「ほら、これをやろう」
 偉そうに渡されたのは道端に落ちていた、手のひらですっぽり包み込めるような小石。しかも限野の手によって何か模様のようなものが黒マジックではっきりと描かれている。
「……路傍の石」
 探るように限野を見れば、彼は堂々と言い放った。
「元路傍の石。今俺特製のお守り」
「……この際路傍の石ってことはいい。それっぽい模様が描いてあるのもいい。けど黒マジックってどうなの? 普通刻むものじゃないの? こういうの」
「描いてあればいいんだよ。別に彫らなくたって、これだってきっちり油性マジックで描いたからそう簡単には落ちねーもん」
「油性マジックで描いた模様とか、ありがたみがないよね」
「何だよー別に文句あるなら受け取ってくれなくていいんだぜ?」
 拗ねたように石を持った手を引っ込めかけた手を慌てて掴んだ。
「待った。いや、私は限野を信じているから。もらいます。油性マジックで描かれたありがたみのない模様とその辺に落ちていそうな石でももらいます」
「最初からそう言えばいいんだよ」
 満足そうに笑って限野は石を私の手に置いた。
 本当に見れば見るほど普通の石だ。しかも模様はマジックで描かれているからどうにも胡散臭さは拭えない。悪徳商法に引っかかりかけている気分だ。本当に効果があるのかどうか不安になってくる。
「あ、そう言えばこの石ってお守りなんでしょ? これでさっきの影みたいなのが寄ってこなくなったりするの? それともああいうのが現れたら自動的に攻撃でもして追い払ってくれたり?」
「基本的にヤバイ奴はそれを持ってさえいれば一宮の姿を視認できない。さっきの影みたいな低級には一宮の姿が見えるし危害も加えることもできる。ただし本格的な……怪我だとか命の危機だとかに及ぶほどの危害は加えられなくなる。多分」
「……多分?」
 不吉な言葉につい語気が荒くなる。
 まぁまぁと宥めるように限野は言った。
「俺だって今は一応普通の学生だし、そんなに前みたいにバンバン魔術使ったりとか出来ないんだって。どうも今回の体は魔術と相性がよくないんだよな。あまり大したことが出来ない」
「相性なんてあるの?」
「あるな。今の俺の体は魔術を使うには全然向いてないんだよ。完全に現代人向けの作りだな。そのうち一宮も試してみろよ」
「試すって言ったって、魔術の使い方なんて知らないよ」
「運がよければ何となく思い出すって」
 呑気に笑って限野は歩き出した。
 その後ろを歩きながら訊いてみる。
「そんな簡単にいくもの?」
「いくだろ? 俺達だし」
「どんな根拠?」
 そう言いつつも、確かに何とかなるかもと思う自分がいた。
 限野に感化されているのか、それとも元から私はこういう性格だったのか。
作品名:灰色蝶にウロボロス 作家名:初瀬 泉