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灰色蝶にウロボロス

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破壊と始動


 新たな日課は最早私の一日に何の違和感も溶け込んでいる。
 かれこれ一ヶ月、毎日欠かすことなく奇怪と遭遇していればいい加減違和感などこれっぽっちもなく、一日のスケジュールに奇怪との交流は含まれていた。
「さすがにもう慣れてきちゃったよ」
 言いながら、ぐねぐねと生き物のようにうねる道を歩く私。
「それはよくないな。確かに最近、前みたいに驚かなくなってきたなーとは思ってたけど」
 踏み鳴らすように歩きながら道を元の直線へと戻していく限野。
「だってもう一ヶ月だし」
「そもそもだ、基本的に対処してるのは俺だぜ? 一宮はいつもその辺をどうでもよさげに突っ立ってるだけだろうが。少しは俺を見習って自分で何とかしてみようとか思ってもよくね?」
「まぁ任せっぱなしなのは心苦しいけど」
「嘘つけ」
「こればっかりはどうにもならないよ。魔術の使い方? とか奇怪現象と遭遇した時の追い払い方とかそういうのは全然思い出さないんだもの」
「せーっかくこの俺が餌を撒いて、お守りもくれてやって、本格的な危険がない程度にああいうのと交流できるようにしてやったのに慣れちゃったとかな。もうお守り返せよ、荒療治でヤバイ奴に狙われたら必死になって思い出す気も起きるだろ?」
 呆れ顔で言ってくる限野の先を歩きながら「嫌だ」と返しておく。
「この一ヶ月、俺は一宮の観察をしているわけだが」
「観察って言うな。この間も言ったけど、人を朝顔やカブトムシみたく言わない」
「さすがにこうも変化がないと飽きてきた」
 観察してきた挙句に飽きたとは何て勝手な言い分だ。
 その勝手な限野は考え込むような顔をして首を捻っていた。
「どうすっかな。短い人間の人生の一ヶ月をこうも無駄にされるとは。俺の予定ではそろそろ全部思い出してもいい頃だと思ってたんだけどな。俺の予定を崩すあたりが一宮らしいっちゃらしいが」
「限野には私が一体どういう風に見えているのか気になる」
「さぁて。どうだろうな」
 限野は意地悪く笑った。答える気はなさそうだ。
「そう言えばさ、私って前世で何やってる人だったの? 何か色んな光景がありすぎて自分が何だったのか全然想像もつかないんだけど」
「そこは頑張って思い出せよ。俺が教えたらつまんねーもん」
「じゃあせめて私と限野は前世でどんな関係だったのか教えてよ」
「それも言ったらつまんねーから絶対嫌だ。俺は自力で知った時の一宮の反応が見たい」
 偉そうに言っているけど、けっこう我がままな言い分じゃないか。
「もし前世で限野と夫婦だったりしたら死にたくなるんだけど」
「俺も死にたくなるわ。そしてもう二度と生まれ変わろうとか考えない」
 久しぶりに意見が一致した。
 言われる側としては屈辱的な一致だけれど。
「ま、それはないってわかっているけど」
「ん? わかってるのか」
「夫婦とか、そういうんじゃない。もっと何か別の形。こうもっと……あーうまく言葉にならない」
「そっかそっか」
 限野は一人で納得したように頷いている。
「その辺がわかってるならまだいいか。これで前世で結ばれる運命だったのに結ばれなくて来世で幸せになりましょうとか言って心中した仲とか言われたら、スカイツリーから飛び降りたくなっちまう」
「せっかくの新たな観光名所を惨劇現場にしないでよ」
「一宮がその程度はわかっててよかったなぁ、ホント」
 人の話など全く聞かずに限野は安堵の息を吐いた。
 本当にマイペースな奴だ。
「ま、私だって前世にロマンを感じているわけじゃないしね。て言うか、本当は前世前世なんて言いたくないわけよ。どうもロマンチックな単語っぽくて。痛いロマンチストみたいじゃない」
「少なくとも思春期で思い込みの激しい考えすぎの痛い奴だとは思われるかもな」
「不本意」
「ご愁傷様」
「まだ思われてない」
 そんな意味なんてこれっぽちもないやりとりをしながら私達はいつの間にか平面に直線に戻った道を駅へと進む。

 電車の中で限野と別れ、私は一人自宅までの道を歩く。
 空を見上げれば薄らと赤く染まっている。すぐそばを小学生らしい子供たちが笑いながら駆けて行く。住宅街なので周りから色々な料理の匂いが漂ってくる。
 平和だ。
 ついこの間まで、私の平和的日常とはこういうものだった。間違っても前世からの因縁だとか、魔術だとかそんなものは日常にはなりえなかった。
 高校に入学して二ヶ月。ほんの二ヶ月でそれが随分と変わるものだ。
「世の中わからないものだよねぇ」
 そう独りごちた時。
 空気が変わった。
 びりびりと肌を刺すような感覚。
 そう気付いた時にはもう辺りには誰もいない。鳥も猫も何もいない。町中から生き物という生き物が消え失せてしまったかのよう。だけどどこか離れた場所で何か重い物が歩くような音が聞こえてくる。異様なぐらい重い音と振動が、少しずつ少しずつこちらへと近づいてくる。
 嫌な感じだ。
 こんなにあからさまな遭遇は一人ではしたことがないのに。限野がくれたお守りの効力が切れたんだろうか。スクールバッグのポケットからお守りを取り出して見てみたけれど、特に変わった様子はない。傍目には変化のないお守りをポケットに戻し、耳を澄ます。
 その間も重い足音は近づいてくる。
 まずいな。
 限野の言った通り少しは自分で何とかできるよう努力はすべきだったかもしれない。努力でどうこうできるものかはわからないけれど、何もしないよりは良かったかもしれない。少なくとも心の準備はできただろうし。
 さてどうしようか。
 限野に連絡……してもあの気まぐれが助けに来てくれるだろうか。そろそろ限野も自宅最寄り駅に着いている頃だろうし、面倒くさがって来てくれない気もする。
 けど連絡しないよりはしたほうがいいだろう。そう思い携帯電話を取り出してみる。
 ディスプレイを見れば、赤字で圏外と表示されている。
「……電波までどこか行っちゃうのか!」
 衝動的に携帯を叩きつけたくなったけれど、そこはぐっとこらえた。
 足音が近づいてくる。
 とりあえず逃げよう。逃げ切れる保証なんてない、逃げたからってどうなるものでもない。けど今私が出来ることと言ったらそれくらいだ。
 来た道を走り戻る。
 重たい足音の主は実際に体重も重いのだろう。ゆっくりゆっくりと歩いているらしく、走ればそれなりに距離を開けそうだ。
 基本的にあの奇怪な連中は私に危害を与えに来る。限野が撒いた餌につられて。
 とは言え今の今まで被害らしい被害は受けたことがないけれど。それは悔しいけれど限野のお守りと限野自身が撃退してくれたからだ。
 燃え盛る炎に囲まれても焼け死ぬことも酸欠で苦しむこともなかったし、ナイフが頭に直下してくることもなかった。巨大猫に噛みつかれることも小鬼が投げた石に当たることもなかった。
「でもあんな重たい足音の奴に遭遇したことはなかったけどさ」
 せめて一度、相手の姿を確認すべきか。相手の全容が知れたら何かしら突破口が開けるかもしれないし。今の無力なる私じゃ開けない可能性も高いが。
作品名:灰色蝶にウロボロス 作家名:初瀬 泉