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しっぽ物語 7.美女と野獣

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「あなた、おかしな歩き方するのね」
 そっぽを向いたまま、女は言った。
「身体を左右に揺らして、まるでペンギンか、映画の怪物みたい」
「そうかな。でも、仕方ないじゃないか。意外とバランスがとりづらいんだ」
 ジャージの袖口は折りたたみピンで留めてある。肘から下とは、思ったよりも重かったらしい。歩くたびに揺れる袖口が視界に入るたび、Vは腕があったころには考えもしなかった寂寥感を味合わされていた。
「もう片方の腕も切り落としたらよかったのに」
 Vの笑いにかぶさった起伏のない声は、煙草のヤニで染まった天井と平行に部屋を付きぬける。
「それでバランスが取れるわ」
「飯が食えないじゃないか」
「這い蹲って食べたら」
 ようやく顔を正しい位置に戻した女は、真顔で言った。
「似合ってるわよ」
 温かさの欠片すらもみえない言葉は、光の中で確かに形を持っている。けれどそれは、氷の塊ではない。元の形は知らないが、口から出た後は歯がゆささえ感じる愉悦となり、軽快にVの身体へぶつかって消える。
「酷いな」
 Vが面白がって返せば、子供のように目だけで天井を仰いでみせ、唇を尖らせる。素朴な表情に、Vは笑いをかみ殺した。あんただって結構酷い格好してるぜ。ヤラれたのか? 誘いに乗ったのか? どうせ行きずりの男だろう? 愉快さの余り飛び出しそうな言葉は、腹筋を揺する事で体の奥底に落とす。
「調子はどうだい」
「今日右目の包帯が取れたの。明日は頭の包帯を取るわ。でもそれがどうしたっていうの? あなたには関係ない」
 Vが出会ったとき、既に丸い青灰色は布で隠されてなどいなかった。すっかりお決まりになったやり取りがいつか本当になることを、Vは願ってやっていた。
「明日は家に帰るのよ。もうお別れ」
「そりゃあ淋しいな」
「感傷的ね。奥さんいるんでしょう?」
「4年前に出て行った」
「そんなことだろうと思った」
 鼻を動かし、笑う。間違いなく捩れているものの、見えている以上の悪意は含まない、薄っぺらい笑みだった。
「見たらわかるもの」
「そうかな」
「貧乏臭いしね。最近女日照りでしょう。だから私に声をかけてきたのね」