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漢字一文字の旅  第一巻(第1編より第18編)

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十四の三  【愛】


【愛】、立ち去ろうとする人が、後方に心がひかれる人の形だとか。
うーん、それでなのか、字体がなんとなく複雑。

そして、今の時代、恋愛/愛人/家族愛、それに自己愛…とかとか、漢字【愛】の百花繚乱だ。
あっちでもこっちでも…【愛】、【愛】、【愛】
そんな【愛】という漢字、いつ頃からあったのだろうか?
それはなんと、二、五〇〇〇年前の紀元前五〇〇年の孔子の言葉にある。

子貢(しこう)、告朔(こくさく)の饋羊(きよう)を去らんと欲す。
子曰わく、賜(し)や、女(なんじ)は其の羊を【愛(おし)】む、
我は其の礼を【愛(おし)】む。

これを簡潔に訳せば、「お前は羊を惜しむだろうが、私は伝統を愛し、重んじる」だとか。
そんな【愛】を、兜(かぶと)に掲げたのが直江兼続(なおえかねつぐ)。そして、「逢恋(ほうれん)」という漢詩を詠んだ。

風花雪月 情けに関せず
邂逅(かいこう)し 相逢うて此の生を慰む
私語して 今宵別れて事無し
共に河誓(かせん) 又山盟を修す

これを意訳すれば、
我々の愛に、風花雪月は関係ない。
思いがけず出逢ってしまった私たち、この愛ある生を愛しみたい。
心からの話しをし、今宵は別れるが、大丈夫だよ。
二人だけの秘密だよ、そしてそれを山河にも誓おう。

【愛】は深いようだが、えっ!
これって…『不倫愛』?
どうもそのようなことらしい。

NHKの大河ドラマ「天地人」、その直江兼続役は確か妻夫木君だったんだよね。
その兜の【愛】が、実は『不倫愛』だったとは…。

しかし、なるほど【愛】という漢字、「礼を愛しむ」の【愛】だったり、「相逢うて此の生を慰む」の【愛】だったりして、とにかく…、いつも波瀾万丈なのだ。