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漢字一文字の旅  第一巻(第1編より第18編)

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十二の五  【薯】


【薯】は、訓読みで(いも)、音読みで(ショ)。意味はいわゆる「芋(いも)」。
だが、「芋」は太くて長い形の意味があり、【薯】は太くて丸くて、蓄える意味があるとか。
これは長芋とジャガイモ(馬鈴薯)の差か?

しかし、【薯】、「薯蕷」/「自然薯」/「捏ね薯」と熟語を作るがほとんど読めない。「とろろ」に「じねんじょ」、そして「つくねいも」だ。

一方、ジャガイモ(馬鈴薯)は肉じゃがの材料となる。
京都府の日本海側に海軍の町、舞鶴がある。
舞鶴湾はその湾口の幅が七〇〇メートルしかなく、軍事の視点から自然の良港。 
そのため、一九〇一年に舞鶴鎮守府(ちんじゅふ:艦隊を後方から統轄する海軍基地)が開かれた。

その初代長官が英国留学帰りの東郷平八郎(とうごうへいはちろう)。
当時は、航海中の水平さんに脚気(かつけ)が多く、何か栄養の良い食事はないかと、東郷さんは考えた。そして思い付いた。
「そうだ、エゲレスで食べたビーフシチューが良い!」と。

早速料理長に、「ビーフシチューを作れ」と命じたが、そんなの知りません。
で、「肉とジャガイモを入れて、とろっと煮ろ」と教えたら、「とにかく作ってみましょう」と醤油と砂糖でぐつぐつ煮てしまった。
ここに日本初の肉じゃがが出来上がったのだ。

だが、最近異論が出てきた。同じ軍港の呉の方から、「肉じゃがの発祥地は呉じゃ」と宣戦布告。
これが世に言う…多分永遠に解決しない「肉じゃが戦争」。

ただ救いは、二つの「肉じゃが」には若干の違いがある。
舞鶴の肉じゃがは男爵いもにグリンピース入り。
呉の肉じゃがはメークインにグリンピースなし。

いずれにしても、【薯】、話題に良い味を出してくれている。

参考に、海軍厨房の肉じゃがレシピをどうぞ。
所要時間は、きっちり三四分
一. 開始   油入れ送気
二. 三分後  生牛肉入れ
三. 七分後  砂糖入れ
四. 十分後  醤油入れ
五. 十四分後 蒟蒻(こんにやく)、馬鈴薯入れ
六. 三一分後 玉葱入れ
七. 三四分後 終了

おいおいおい、ここにはグリンピースが入ってないぞ。