小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

漢字一文字の旅  第一巻(第1編より第18編)

INDEX|55ページ/131ページ|

次のページ前のページ
 

八の三  【煕】


【煕】、難しい字だ。
上部の左は乳房の形、そして右は乳児の形。これにより授乳の姿で、養い育てる意味があるとか。
音は(キ)、訓は(ひかる)/(ひろい)/(やわらぐ)などと読む。

今から約五百年前に、『妻木煕子』(つまきひろこ)と言う女性がいた。
その熙子の夫は明智光秀。
光秀との婚約後、熙子は疱瘡(ほうそう)にかかり痘痕(あばた)が残る。
父はこの縁談が破断になることを心配し、妹に煕子の振りをさせて、光秀のもとへ送り出した。
しかし、光秀はこれを見破り、煕子を妻として迎え入れる。
夫婦は仲睦まじく、光秀の浪人時代、煕子は自分の黒髪を売って光秀の生活を助けた。

余談になるが、売られた黒髪、当時何のために使われたのか不明。
人形、それともカツラ。
有力なのは、女性が髪を結うにあたって、足りない所を補う髢(かもじ)だとか?

そんな煕子の内助の功があり、光秀は出世する。
光秀は側室を迎えず、妻の熙子だけを一途に愛した。
だが光秀が大病した時に、その看病疲れで熙子は亡くなってしまう。
その後、光秀は、日本歴史上最大のミステリー、『本能寺の変』を起こす。
そして、京都伏見の東部、小栗栖(おぐりす)の竹藪で、落ち武者狩りの百姓に竹槍で刺し殺される。

その辞世の句は、
『心しらぬ 人は何とも 言はばいへ 身をも惜まじ 名をも惜まじ』
明智光秀の生涯、それはただただ煕子と歩んだ人生だったのかも知れない。

そんな【煕】、「熙笑」(きしょう): なごやかに笑うこと。
また、「熙熙」(きき): なごやかに喜びあうさま、の熟語を作り、「衆人熙熙として楽しむ」とある。

とにかく【煕】という字、明智光秀と同様、どことなく愛着を覚え、そして拘(こだわ)りを持ってしまう漢字なのだ。