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漢字一文字の旅  第一巻(第1編より第18編)

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十八の三  【城】


【城】、右部の「成」は戈(ほこ)に飾り付け、お祓(はら)いすることだとか。
したがって、【城】とは清められた場所ということだそうだ。
そんな【城】、歴史の中で様々なドラマを生んできた。その一つが琵琶湖の湖北の山城、小谷(おだに)城だ。

時は約四四〇年前の一五七三年、城主の浅井(あざい)長政と織田信長の妹のお市の方、この二人は政略結婚ではあったが、仲睦まじく暮らしていた。
しかし、同朋の越前の朝倉義景が織田信長と対立した。これにより織田家/浅井家の友好関係は破断してしまう。
豊臣秀吉は織田信長の命を受け、三万の兵をもって攻めた。
こうして小谷城は落城した。

それは浅井長政二九歳、お市の方二六歳の時のことだった。
そして浅井長政は無念の自害。しかし、お市の方は生き延びることを選択する。

燃え盛る炎の中から、茶々、初、江の幼い浅井三姉妹を連れて【城】から下りてきた。
しかし、長男の万福丸は殺害され、次男の万寿丸は出家させられる。
それから九年の歳月が流れた。一五八二年六月に本能寺の変が起こった。この明智光秀の謀反で、織田信長は没す。  
その三ヶ月後、お市の方は三姉妹を連れて柴田勝家と再婚する。

しかし、穏やかな日々はそう長くは続かなかった。翌年の四月二三日、秀吉が越前の北の庄城(福井)を攻める。 
お市の方は前回小谷城で浅井長政を残し、生き延びた。多分、なにか心に去来するものがあったのだろう。今回は死を選んだ。

夫の柴田勝家と共に城に火を放ち、炎の中で自刃する。
しかし、この時…茶々は十六歳、初は十四歳、江は十二歳。浅井三姉妹は【城】から出てきた。

【城】、それは住む者たちの生と死を分けていく。
そして、そこからまた【城】は新たなドラマを生みだしていくことになるのだ。