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漢字一文字の旅  第一巻(第1編より第18編)

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十八の四  【生】


【生】、草が生え育つ形だとか。

一五八三年、柴田勝家とお市の方は城に火を放ち、炎とともに自刃した。
その時の勝家の辞世の句は、
『夏の夜の 夢路はかなき あとの名を 雲井にあげよ 山ほととぎす』

意味は、夏の夢のように短く、はかない人生だった。私の名が後世まで語り継がれるように、山ほととぎす、雲の上まで飛んでくれ。

一方、お市の方は詠んだ。
『さらぬだに 打ちぬる程も 夏の夜の 別れを誘ふ ほととぎすかな』

ほととぎすは、冬から春に飛んで来る鳥。黄泉(よみ)の国から来ると思われていた。
ほととぎすを掛け合った夫婦の辞世の句、そこには【生】の儚さがある。
しかし、城から逃れ出てきた茶々(十六歳)、初(十四歳)、江(十二歳)。そこから浅井三姉妹は波瀾万丈に【生】きる。

お市の方の面影が一番残る茶々は秀吉の側室に。後に絶大な権力を振るうが、大坂夏の陣で、大坂城は落城。淀殿(茶々)は四七歳、息子の秀頼とともに自刃する。

初(十八歳)は近江の名門、京極家の高次に嫁ぐ。そして四十歳の時、夫は亡くなり、出家する。その後、豊臣家と徳川家が対立し、豊臣方の使者として仲裁に奔走する。しかし、結果は大坂夏の陣で豊臣家は滅亡。
その後、京極家の江戸屋敷で過ごし、妹の江によく会っていた。姉妹の中で最も長寿の六四歳で没す。

江(二三歳)は、徳川家康の嫡男・秀忠と三度目の婚姻をはたす。その後、千姫、家光を含む二男五女をもうける。家光が三代将軍になった三年後、五四歳で没す。

【生】は、草が生え育つ形。
茶々、初、江の浅井三姉妹、まさにその通りに育ち、そして戦国の世で、母の分まで【生】を全うしたのだ。