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漢字一文字の旅  第一巻(第1編より第18編)

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十五の三  【仙】


【仙】、「人」偏と「山」とが組み合わさっている。
そして、その意味は山中で霞(かすみ)だけを食べて、不老不死の術を修行する人のこと。いわゆる仙人だ。

そんな【仙】、「水」が付いて『水仙』となる。それは雪の中で芳香を放ち、凜と咲く。だから、雪中花(せつちゆうか)とも呼ばれている。
松尾芭蕉は、その花を、『その匂ひ 桃より白し 水仙花』と軽く詠った。さすがだ…ね。

また、与謝野鉄幹から水仙の君と呼ばれていた与謝野晶子、多分好きだったのだろう、多く詠った。

『白鳥が 生みたるものの ここちして 朝夕めづる 水仙の花』

『水仙は 白妙ごろも よそほえど 恋人待たず 香のみを焚く』 などなど。
うーん、なるほど、情感あるものだ。

こんな『水仙』、学名は「Narcissus」(ナルシサス)。
ギリシア神話で、美少年のナルシサスは水面に映った自分に恋をした。だが、恋は実らず…、アッタリ前田のクラッカーと叫びたくなるが、やっぱりやつれて死んでしまう。

そして、少年は水辺に咲く花に変わった。それが『水仙』だ。
ここから、かっての上司の…罪深い有りさま、そう、『ナルシスト』という言葉が生まれたようだ。

そして中国語では、『ナルシスト』のことを『自恋』と言い、
この神話は「自恋的水仙花物語」と紹介されている。

また英語では、『水仙』は「daffodil」。かって、「七つの水仙: Seven Daffodils」と言う歌があった。
悪友の高見沢一郎の訳でご辛抱願うなら…。

僕には 大きな家も 土地もない
手には しわくちゃの紙幣 一枚さえもない
けれど 千の丘に明ける朝を
君に 見せてあげたい
そして 君へのキスと
七つの『水仙』を あげよう

歌はこのような詩であるが、うーん、なんとなく恋に恋する「自恋的水仙花」、ナルシストのような雰囲気がする。

いずれにしても、【仙】という漢字、元々は「霞」を食って生きてるオッサンのこと。だからなのか、【仙】に纏わる話題、なんとなく加齢臭…。
いや「霞」ぽくって、腹応えしない話しなのかも知れないなあ。