漢字一文字の旅 第一巻(第1編より第18編)
十四の六 【沌】
【沌】、右の「屯」は織物の縁の糸を結びとめた房飾りの形で、たむろする意だとか。
それに「さんずい」が付き、水が流れず塞がっている状態を言う。
そして、熟語『混沌』を作り、それは天と地がまだ分かれていないあり様。物事がもやもやしてはっきりしないこと。
英語では、この事態を「カオス」(chaos)と言う。
手短に言えば、タバコの煙り。ふうと煙を噴き上げた。しかし、誰もそのもやもやとして紫煙の形を正確に予測できない。
これがいわゆる…カオス状態だ。
だが、こんなカオス、つまり『混沌』状態にあっても、原因があっての結果だ。それを科学的に体系付けたものがカオス理論。その中の一つが「バタフライ効果」というものだ。
ちょっとした原因が大きな結果を生むという理屈。
「北京で蝶が羽ばたくと、ニューヨークで嵐が起こる」
マサチューセッツ工科大学の学者が講演でこう主張した。
しかし、「なんでやねん?」と問い合わせても答は返ってこない。
なぜなら、未だ「北京で蝶が羽ばたく」と、どうして「ニューヨークで嵐が起こる」かの、それらが結びついていないから。
だが、この理屈、いい加減だとポイと捨てられない。日本にはあったのだ、この「バタフライ効果」なるものが。
『風が吹けば、桶屋が儲かる』
風が吹くと、砂が舞い上がって、目に入る。そして、盲さんが増える。
昔、盲さんは生業(なりわい)で三味線を弾いた。それで三味線の腹になる猫の皮がもっと必要。そのため猫がどんどん捕えられた。
これで猫が減って、鼠がわんさかと増殖する。あっと言う間に、鼠は桶を囓り、各家にある桶がボロボロに。
桶を作ってちょうだいと、カミさんが桶屋に走る。
桶屋のダンナ、「ヨッシャー、マカセナサーイ」と…大儲かりとなる。
だから、『風が吹けば、桶屋が儲かる』
これぞ…『混沌』のバタフライ効果。
まことに【沌】が…桶(OK)となる。
作品名:漢字一文字の旅 第一巻(第1編より第18編) 作家名:鮎風 遊