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漢字一文字の旅  第一巻(第1編より第18編)

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十四の五  【華】


【華】、花びらが美しく咲き乱れている形だとか。
その【華】を、腰をかがめて抜き取る形が「拝」となり、その姿が拝む姿勢でもあり、「拝礼」となったそうな。
うーん、なるほどと感心するが、その時々の時代に【華】はあった。

万葉時代は額田王(ぬかたのおおきみ)は、
『茜さす 紫野ゆき 標野(しめの)ゆき 野守は見ずや 君が袖ふる』と歌った。

そして絶世の白拍子・静御前(しずかごぜん)は源頼朝と妻の政子の前で、吉野で別れ、そして逃げた義経を想い、
『静や静 しずのおだ巻き くり返し 昔を今に なすよしもがな』と、身ごもりながらも気丈に歌い舞い踊った。

さらに、信長の妹のお市の方、
『さらぬだに 打ちぬる程も 夏の夜の 別れを誘ふ ほととぎすかな』と詠み、茶々、初、江の娘たち・浅井三姉妹を城から放った。そして、柴田勝家と共に自害。

光秀の娘の細川ガラシャは、
『散りぬべき 時知りてこそ 世の中の 花も花なれ 人も人なれ』と詠い、キリシタンは自害ができず、家老に槍で胸を突かせて命を絶った。

時代時代を色取った【華】たち、いずれもまことに儚いものだった。
そして、ここでは引き続き小野小町。
彼女の化粧井戸や文塚のある随心院。少し遅いが、三月中旬に二百三十本の低木の梅が狭い地にぎゅっと圧縮されて満開となる。

その色合いは『朱華』。
これは(はねず)と読み、淡紅の万葉色。
この色の着物を灰で洗うと、色が抜けてしまう。移ろいやすい色だと言われている。

【華】、時代時代に【華】は咲くが、まさに有為転変の無常に思い至らせてくれる漢字なのだ。