Heart of glass
「・・・浅井、占いとか信じるタイプやろ」
「当たらないとはなから馬鹿にするよか、少しでも信じてみようとする努力こそ前向きとは思わないか?」
前向きなのか、ただの口上なのか。不敵に笑うだけの貴志惟からは、何もうかがい知る事はできなかった。硝はあきらめて話を進めさせる。
「で、何が言いたいねんな」
「ま、ともかくお前のその行為が、お前から俺への情報提供になったわけだ」
そこで硝は気付いた。この話は、きっと最初に戻る。硝のおおげさな表情の変化に気付いた貴志惟は、パタパタと持て余していた扉から手を離した。
「俺に雑用させるな。それが俺からの、部活をやるための条件だ」
貴志惟がそう言うと、風の力でゆっくりと扉が閉まっていった。隙間から、彼が旧工芸室をあとにする姿が見える。中にはぽかんとした顔の硝が一人、残された。
「え?なんで部活まで・・・」
硝が先ほどまでの会話で解ったのは、先ほどの会話が、貴志惟の言う「意味ある会話」であったという事だけだ。情報交換こそ男同士の会話の意義であるならば、先の会話は情報交換を見事果たし、意味ある会話を成し遂げたというにふさわしい。だが、彼がなぜそんな話をしたのかまでは解らなかった。
不意に硝は、賭け開始日の貴志惟の発言を思い出した。
『会話ってのは、友達とだけすりゃいいもんだろ』
『会話は成り立って、初めて会話って呼べんだよ!』
そして今日の会話で。
『ま、仲間思いってのは、はずれちゃいねぇけどな』
つまり、貴志惟は硝を仲間とみなし、困っているなら協力してやると言ってくれたわけだ。
その結論に至った硝は、間違えている可能性など微塵も考えず、貴志惟を追って旧工芸室を飛び出した。
作品名:Heart of glass 作家名:神田 諷