Heart of glass
「俺がお前の人間不信を説明する事で、お前の求める『能力』を所有していると証明した。そしてその証明は、すなわち俺からお前への情報提供だ」
貴志惟の言い方は遠まわしすぎて、硝の頭は混乱し始める。学力と分析能力の高さを同一視してはいけないのは、長距離走選手の足が速いとは限らないというのと同義の話だ。硝の場合、学力はずばぬけて高くとも、分析能力はお世辞でしか高いと言えない。ちなみに貴志惟がその真逆なのは言うまでもないだろう。
相当なまぬけ面の硝に、貴志惟は何一つ説明する事もなく、話を続ける。
「そしてお前は俺が人好きであると、俺も気にしない口癖から読み取って、的確な判断を下した」
彼の言い方は、レポート用紙に書いた筋書きを、多田読んでいるかのように事務的だ。他人行儀な貴志惟に、硝はいまだに頭が追いついていない。
「的確な判断て・・・。俺が言ったのは心理学にすらのっとっとらん、一個人の観察と偏見によるただの感想にすぎひんて」
謙遜でもなんでもない硝の言葉に、貴志惟は顔色一つ変えずに返す。まるで、そうくる事が解っていたかのように。
「確かにそうかもな。でも、それお言ったら俺のさっきの推論もそうだ。大体推理なんて、物的確証や事件性のあるものじゃなければ、大体が状況を客観視できるやつの思い込みだろ」
誰かの言うことが当てはまる気がするのなら、それを真実として受け止めても悪くない。彼にとって推理とは、まさにそういうことなのだ。そう言いたいのだろう説明が下手な彼の論説を、硝が解りやすい言葉で確認を取った。
作品名:Heart of glass 作家名:神田 諷