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Heart of glass

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「さ、これで賭けの内容は終わりや。お前の勝ちやで、浅井」
 なぜかすっきりとした硝の敗北宣言に、貴志惟はため息とともに席を立った。
「何でも言うてみ!男の約束や。ちゃんと守るで」
 悔しいからか寂しいからか、硝はおおげさにこぶしで胸を打った。馬鹿なことに打ったところを痛そうに押さえる硝の横を、貴志惟は何も言わずに通りすぎる。
「浅井?」
 何でもいいからせめて何か言って欲しかった硝は、貴志惟の姿を目で追いかける。閉まっていたドアのノブを勢いよく回すと、錆びた音でガチャっと言った。この教室が使われなくなった原因は、おそらくいつ閉じこめられてもおかしくないと思わせる、この扉だろう。こんな不安な教室で、まじめに授業を受けられるほど、警戒心のない生徒はそういない。
 扉を開けると涼しい春風が舞いこんできて、重たかった旧工芸室の雰囲気を一掃した。きたときに開けた窓が、初めて機能したのだ。
 貴志惟は、何を言われるのか不安な硝の顔を、くるりと振り返って視界に入れる。そして妖しく笑いながら、あまりにもすがすがしく伝えた。
「じゃあな、奥椙」
風が優しく、扉を動かした。
作品名:Heart of glass 作家名:神田 諷