Heart of glass
「・・・憧れ?」
落ち着きを取り戻した硝が、本気で解らないという様子できょとんとした。貴志惟は硝のためというより、自分の頭の中を整理するかのように述べていく。
「リンの裏切り行為によって人間不信となったお前は、自分の信じられる相手を探していたんだろうな。そこで出てきたのが、お前と違う世界の人間だ」
個人的見解色の強い発言に、硝は貴志惟を凝視する。視線を感じながらも、貴志惟が話を切ることはない。
「不良という自分から縁遠い場所にいて、なおかつ自分では絶対に身につけられない能力を持っていると自分が判断できる人間。つまりは不良探偵だったんだろうな」
「・・・ようそんなに自分のことをほめられるな」
硝は感心したつもりで言ったのだが、貴志惟には馬鹿にしているように伝わってしまったらしい。貴志惟はじろりと硝をにらんだ。硝はまったく怖がっていない様子で、「おお怖い」とおおげさにリアクションしておく。彼も少し調子が戻ってきたようだ。その態度に、貴志惟は今までなかった眉間のしわを出現させる。
「とにかく、非日常の住人との深い関わりを求めていたわけだ。そこに、俺が現れた。お前の望む条件の多くを持っている俺がな」
「浅井って、実はナルシストなんとちゃう?」
そんな事を言うと、彼の靴が硝に向かって飛んできた。彼はそれを間一髪でよける。するとそこには二発目がいて、それが顔面に直撃する。「痛い」とわめく彼をよそに、貴志惟がおいうちをかける。
「全てにおいてお前に比べてだ。日本全国に俺程度の思考の持ち主は何百人といるだろうな」
「何百人もおったら、俺みたいな奴のほうが少ないやんか」
「いちいちうるせぇな」
じろりと硝をにらむと、硝はまったく誠意のない謝罪をする。
作品名:Heart of glass 作家名:神田 諷