Heart of glass
「信頼していた友人からのその一言に、その臆病さが起因してそんな事態になったというわけだ。頻繁に友人を変えるのも、それが原因と思える」
すべてが推測の域で、事実はない。が、ちらりと見た硝は、先ほどと変わらぬ異様な笑みを浮かべているだけで、反論はなかった。もはや心理戦の域である。肯定ととらえた貴志惟は、話を続ける。
「次に、なんで推理クラブだと思ったのか。答えは簡単。お前は俺が不良探偵であることを知っていたんだよ」
「なんで俺が不良にからまなあかんねや」
くすくすと笑う硝はらしくなかった。実は彼もだいぶ追いつめられていると、再び一瞥した貴志惟は知る。
「ま、普通はそう思うよな。でもお前は違うだろ?お前みたいに、極力人の印象に残る行為を避けたい人間なら、ある程度のドラマや小説を把握している必要がある」
「なんで?」
「人並みの知識を持っているやつより、普通の人が知っている事を知らない奴の方が、印象に残りやすいだろ。逆に自分と同程度の知識がある、もしくは少しもの知らず程度のほうが、印象に残りにくい」
貴志惟の説明に、硝が納得の意を示す。すべて貴志惟の対人関係の感想だと、いつもの彼なら気付けただろう。が、そこを掘り下げる余裕は、硝にはもうなかった。
作品名:Heart of glass 作家名:神田 諷