Heart of glass
「お前、人間が嫌いだろ」
「それは自分とちゃうの?」
「俺はいいんだよ。今はお前の話だ」
貴志惟は教壇の上に発見した教師用の椅子に、すとんと座った。なぜそれが余っているのか解らないが。ずれた視線を戻すことなく、そっぽを向いて言う。
「人嫌いっつーと、語弊があるか。となると、人間不信、友情否定、対人恐怖症ってあたりか?」
尋ねる口ぶりに返答を求める色はない。しかし、その言葉に硝が目を丸くした。言い方は違えど、すべて同じような言葉だ。硝の反応が肯定と受け取った貴志惟は、それにいたるまでの説明を始める。
「まず、お前が遅刻してきた原因だな。これは、話しかけるきっかけが欲しかったんだろ?」
「意味解らん」
そう言って、硝はケタケタと笑う。まるで、ひとごとのようだ。しかし、貴志惟もそれに続いた。
「俺も解らんねぇな」
硝の嘘に乗っかるように、背もたれに寄りかかる。結果、彼の視線は天井へ向かった。教師用の椅子は、意外と背もたれがよく倒れる。ある程度の沈黙の後、灰色の瞳はしっかりと不敵に笑う硝をとらえている。
「でも、話しかけるのが不安だったんだろ?俺が赤穂と先にメアド交換しただけであの反応だ。おそらく、『用もないのに話しかけるな』とか言われたんじゃんねぇの?」
「そんなんで話しかけんのをためらう奴が・・・」
「普通ならな。でも、お前の生真面目さは異常だ。臆病ともいえるか?まあ、その服装やカバンを見りゃ、それも一目瞭然、解んねぇほうが馬鹿だな」
解らなかった周囲の学生に対し失礼である。自分の見解が間違っていないと無意味な自信を持つ貴志惟に、硝は声を出して笑いそうになった。貴志惟はその様子に気付く事なく、言葉とともに視線もそらしていた。彼は淡々と続きを語る。
作品名:Heart of glass 作家名:神田 諷