Heart of glass
放課後。硝に案内されるままに、貴志惟はまだ行ったことのない五階に向かう。五階にあるのは特別教室で、来週から使われる教室が並んでいた。まだ使われていないためか、垣間見える教室内は、掃除されていなくともきれいなままだ。長々筒づく教室を抜けて、突きあたりで足を止めた。突きあたりにも、一つだけ教室がある。扉を開けた硝は、教室を出て初めて貴志惟のほうを向いた。
「ここや」
そう言ってその教室の中に入っていく。上に掲示された看板には、工芸室と書かれているが、大きくバツが書かれていることから、もう使われていないことが解った。
中は小さめの引き出しや流し台のほかに、教卓が一つと机が二、三個しかなく、すっきりとしていた。ほかの物は全て運び出されてしまったらしい。
「ここは、部活を作ったときに部室にしよう思ってな」
そう言いながら、硝は窓を開けた。それから乱雑に配置された机の上に座った。椅子がないようなので、貴志惟はそのまま硝の向かいに立つ。目の位置がそろった。
「お前が・・・」
「ちょい待って!」
台詞を止めた硝は、大きく深呼吸をする。それから続きをうながした。何の覚悟なのかわからないが、心の準備が必要らしい。貴志惟は考えた結論を告げる。
「お前が作りたいのは、頭脳系の部活だ」
あまりにも大ざっぱすぎる区切りに、硝は困ったような顔をする。その区域で並べるなら、賭けのときに出たテニス部など、運動系という区切りになってもおかしくない。なぜならその区切りだと、クイズ研究会も、囲碁将棋クラブも、数学同好会だって該当してしまう。「文化系」とくくられなかったのが幸いだが。それを注意すると、貴志惟はにやりと笑う。
作品名:Heart of glass 作家名:神田 諷