Heart of glass
その日の硝は、何から何までおかしかった。行動はいつも通りなのに、どこか大人しくよそよそしい。今までのずうずうしさなど、まったくなかった。会話もほとんどなく、そのまま早くも昼になる。
あれから毎日硝は弁当を持ってきているので、買ってくるのを待つ時間が無くなった。弁当箱を広げ終えた硝が、ポツリとつぶやく。
「今日、やな」
「ああ、今日だな」
貴志惟は袋から取り出した焼きそばパンにかじりついた。硝の無口の原因が判明したためか、じっと見ていた視線を変える。あっさりとした貴志惟の返答に、今度は硝がじっと貴志惟を見た。さっさとパンを食べ終えた彼は、次のパンを選出する。その間、硝は彼をまじまじと見てしまった。
「なんだ?」
「へ?」
パンを見たまま話しかけてきたので、硝の反応が遅れた。カツサンドを掘りおこした貴志惟は、それを包んでいるラップをはがす。彼から続ける言葉はないらしく、カツサンドを黙々と食べ始めた。硝は「なんでもない」と言うと、弁当に手をつける。
実のところ、硝の心は複雑だった。矛盾した願いがとれず、曖昧な希望が硝を包む。貴志惟に答えを当ててほしいものの、当てられては部活ができない。また、これしきのことも当てられないようならば、部活を作っても意味がない。弁当を食べながら、再び貴志惟に視線を向けた。美味しそうな顔ひとつしない貴志惟から、目だけで情報を引き出すことは無理そうだ。
作品名:Heart of glass 作家名:神田 諷