Heart of glass
「よくこんなに集まったな」
「彼は一度も引っ越しをしていないからね。この辺だけで充分だったよ」
「昨日のあの時間からだろ?」
「あの時間からだから何?」
別に喧嘩を売ったわけでもないが、彼のプライドを見えない程度に傷つけてしまったようである。機を凝らすように、貴志惟は話題を変える。
「それにしても、一回も引っ越しをしていないのか、あいつは」
「何か関係でも?」
人生で一度も引っ越しを経験していない高校生など、いくらでもいるだろうにと、実際そうであるタカは感じた。たいした重要事項ではないはずだ。そんな感想のタカを放って、貴志惟は自分勝手に次々と話題を変える。
「あいつの家のある住宅地、知ってるだろ?」
「もちろん知ってるよ。たぶんこの学園に知らない人はいないんじゃないの?」
貴志惟の隣に立っていたタカが、フェンスのほうへと歩きだす。遠くに見える硝の家のある住宅地を見つめた。住宅地の一角を淡い白に染めるそこは、知らなくとも目を引く。
「だってあそこは、超高級住宅地じゃないか」
それを聞いた貴志惟は、思わずにやりとほほえんだ。
作品名:Heart of glass 作家名:神田 諷