Heart of glass
屋上前についた貴志惟は、タカを探した。しかしその姿はなく、やはり屋上そのものなのだと諦める。普段鍵がかかっているのであろうドアノブを回すと、妙な音もなくすんなりと開いた。あまりに使われなさすぎて、錆びることをも忘れてしまったらしい。一体全体本当に、何のための屋上なのか。解決することのないだろう疑問を抱えながら、屋上へと出ていった。
屋上は建物が大きいだけに広く、なかなか快適な空間だった。本当に、使わないのがもったいないくらいだ。しかし、そこには誰の姿も見つからなかった。まだ来ていないのだろうかなどと、ありもしない可能性に期待する。が、呼び出した人物が、遅刻することはあまりない。特に彼の場合はないに等しかった。
「昼休みが終わっちゃうじゃないか」
案の定どこからともなく聞こえた声は、屋上の扉の上だった。完全に錆びきったハシゴはいつ壊れるかも分からず、普通なら上らないだろう。しかし、遅刻してきておいて「降りてこい」とはさすがに言えない。仕方なく貴志惟は、タカの元へ行こうとハシゴに手をかけた。
「危ないよ、いつ壊れるか分からないし」
自分と同じ推測をしたタカに、貴志惟は目を丸くした。
「使わずに上ったのか?」
「君には無理だね」
その意見に、彼が身長と腕の力だけで登ったことが判明する。腕の力ならば負けないのだが、身長が関わると話は別だ。ふてくされた貴志惟は、屋上の床にじかに座った。
扉の上から飛び降りたタカが、貴志惟にまっしろい封筒を渡す。百均かそこらで売っているようなそれは、多くの資料に形を変えていた。
作品名:Heart of glass 作家名:神田 諷