Heart of glass
唐突な再会というものは、時に気まずさを生む。貴志惟は昔タカがこぼしていた感想に、思わず同意してしまった。会う気もない人に会うと、本当に気まずい。
今、教室を出た貴志惟の前にいるのは、先日足の手当てをしてくれたあの保健委員の少女だった。どうやら二組の人だったらしい。よりによって貴志惟が教室を出るタイミングと、彼女の入るタイミングが合ってしまったのだ。互いに気づいてしまったからには会話しないわけにもいかず、会釈してさっさと目的地に向かうには少し時間が経ちすぎてしまった。というか、治療してくれた恩人に対して無視は、不良として名が廃る。
「あ・・・っと、この間はどうも」
「いえいえ!あれくらい別に・・・」
言い終えてからおどおどとした動作で、彼女は口をつぐんだ。礼も言ったしそろそろ行ってもいいかと、貴志惟が歩き出そうとする。が、そのタイミングで今度は彼女から話しかけてきた。
「あの、足の怪我はどうですか?」
「もう治った。あんたの処置が早かったからだろうな」
たいした怪我ではなかったが、それでもこんなに早くは直らなかっただろう。無視してたら、今でも腫れていたかったに違いない。タカに散々怒られるという、いらんオプション付きだ。それを考えると、彼女への感謝もひときわ大きくなる。
不意に、貴志惟の携帯が鳴った。見てみると、タカからの催促のメールだ。彼は彼女にもう一度礼を言うと、タカのいる屋上に向かって駆け出した。
残された少女は一人、貴志惟の駆けていく方を眺める。教室の前で遠くを見やる少女に、教室から迎えが来る。動かない彼女に疑問を感じたその友人が、頭の上に軽くぽんと手を置いた。そこで少女は現実に戻ってくる。
「どうしたの?美沙」
「あ、優奈ちゃん。ごめんね、なんでもないの」
教室にはいった少女と入れ替えに、少女の見ていた方向を、なんとも言えない顔でその友人は眺めていた。
作品名:Heart of glass 作家名:神田 諷