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　ずる休みしやがった。
　最終日に情報収集をはばむ卑怯な手を使った硝に、貴志惟は不快感をあらわにする。一週間の無遅刻無欠席は条件づけておくべきだったと、後悔さえ覚えた。硝が毎日遅刻してくるおかげで、情報不足もはなはだしい。タカがいなければ、完璧に負けだったと言えよう。
　とはいえ、一対一で勝負していると思っている硝に、実は二対一であることを告げていない貴志惟も充分卑怯である。
　しかしながら硝のいない一日というのは、貴志惟にとっては初めての経験だった。そのため、しっかりと高校生活も初めて体験できたのだ。もちろん「新たな高校という場で、新たな友人とともに生活を送ること」が高校生活であるなら、貴志惟の今までの生活も当てはまるのだが、忙しすぎて実感たるものがなかったのが現実だ。一週間も毎日嫌というほど友情もない相手と顔を合わせていれば、相手の顔に飽きてしまうのも当然のこととも言える。
　硝にはかわいそうだが、貴志惟は硝のいない高校生活を充分に満喫した。
「今日の浅井、なんかイキイキしてるね」
　昼食時。購買に行ってしまった俊介を待っている義章が話しかけてきた。特に誰かと多くしゃべったわけでもないのに、どうして解ったのだろうかと疑問を持つ。怪訝な顔で伝わったのか、義章は自分の眉間を指差して笑う。
「しわが寄ってなかった」
「ああ、なるほどな」
　いつも面倒臭さ全開で対応しているため、癖のように眉間にしわを寄せていた。昨晩など、『縦じわが消えなくなるよ』と、電話ごしにタカに注意されたばかりだ。無意識なのでまったく気づいていなかったのである。しかしそんな彼の眉間にしわがないからと言って、「イキイキしている」という表現を使う義章も義章だ。しかも丁寧な事に、発言に対して貴志惟がしわを寄せたので、過去形で告げている。
　しわの跡の話を思い出し、思わず眉間をさする貴志惟に、義章が笑いかける。
「ところで、今日は一人で食うの？」
「あ、いや。屋上で待ち合わせしてる」
「屋上？屋上は立ち入り禁止だよ？」
　何も持たずに席を立った貴志惟に、義章が持ち上がりとして常識的な知識を教える。が、貴志惟も不思議そうな顔で返した。
「俺も奥椙からそう聞いたんだが･･･。何の技術か開けられるんだろうな、きっと」
　あいまいな彼を前に、状況の分からない義章は、目で稀を追いながらぽかんとマヌケな顔をした。
「は？開けられるって？」
「詳しい事は知らねぇけど、『屋上に来い』って言われてんだよ」
　これ以上何も知らないという感情を目一杯込めた言葉とともに、貴志惟は教室の扉を開けた。