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Heart of glass

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 彼は手に持つ用紙を渋い顔で見ていた。隣に座る硝が、それを首をかしげてのぞきこむ。平均身長を上回る大柄な男子のその動作は、お世辞にもかわいいとはいえない。
「なんちゅー顔しとんねんな」
 話しかけられた彼は、緩慢な動きで硝を一瞥する。再び紙に視線を戻してから、ため息とともに投げやりな返事をする。
「お前には解らねぇだろうな」
 その行為から硝は彼が不機嫌であると判断する。彼は自分の机に置いてあった紙をつまんで、自分の目の高さに上げる。それは彼が見ているのと同じ、身体測定の結果を仮記入するための用紙だった。紙をひらつかせながら、まじまじと用紙をみつめた。
「おおげさやなぁ、たかだか身体測定くらいで」
 多くの生徒が抱くであろう、硝の感想。身体測定にそこまで憂鬱になるのは、かなり少数派だろう。マイノリティーな彼が、自分のものから硝のものへと視線を移す。まだ名前と枠しか書かれていないまっさらな用紙の、一番上の枠を見る。一番上の枠は、身長を書きこむための枠だ。
 ふと、彼は硝に尋ねた。
「お前、身長どれくらいだ?」
 彼にむげにされたにも関わらず、硝はその質問に一年前の記憶を呼び起こして答える。
「最近伸びとらんからなぁ・・・。たしか去年は百八十・・・」
「もういい」
「なんやねんな・・・、聞いといて」
 これ以上聞いては精神的に多大なダメージがくると判断し、彼は話を途中でさえぎったのだが、なかなかその感情は伝わらなかったらしい。
 クラスで移動し始めたものの、硝はペンを忘れ、彼はボールペンと間違えてシャーペンを持ってきてしまったので、二人そろって教室に一度戻るはめになった。
 教室に戻った彼は、文句を言いながら筆箱をあさる。
「シャーペンがダメならダメと、初めに言うべきだろ」
「言うとったで」
 硝がボソッと訂正すると、彼はきっとにらんだ。先ほどまでは非常に騒がしかったが、今では寂しいほどに静まり返っていた。彼の小言が硝の耳に届いた理由はそれだ。ボールペンを取り出すと、硝はわざと大きな声を出して彼をせかした。怒っている彼の気を少しでもそらそうという魂胆である。
「ほら、早う行かんと終わってまうで」
「そんなに早く終わってたまるか」
 うるさそうな顔で彼が硝から目をそらすと、硝が窓のほうに動き出す。それによって視線を戻した彼の顔をちらりとも見ずに、唐突に外の建物を順番に指さした。背の高い、巨大な建物を四つ。
作品名:Heart of glass 作家名:神田 諷