Heart of glass
「それにしても」と、体制を直した硝は切り出した。
「なんで後半、あの不良は固まっとったん?」
硝の言うとおり、確かにあの不良が固まるほどの言葉は出てこなかったはずだ。的中されたことによる恐怖か、はたまた不良間でしか伝わらない隠語や秘密があったのか。
聞かれた貴志惟は何を言うでもなく、唐突に走り出した。あわてて硝は追いかける。置き勉をしている貴志惟としていない硝の差は、開かずとも縮まずの競争。すでに数十メートルは走ってしまっていて、思わず硝は声をかけた。
「ちょい待ちぃな!これ以上行ったら、もう着いてまうやんけ」
その言葉に、貴志惟は足を止める。急ブレーキなどきかない硝は、そのまま前に転んで体を強打した。ずるずると身を起こして、立たずにずれた眼鏡だけ元に戻す。それから痛がりながらも、硝は貴志惟を視界に入れた。見上げるその顔は、心なしか嬉しそうである。それもそのはず。彼はまさか「待ってくれ」で止まってくれるとは思わなかったのだ。この間まではそんなことを言っても、彼は走り去っていたのだから。
友人関係に、多少なりとも進歩が見えたかな?そう硝は浮き足立った。
が、硝の想像が間違いであることが判明する。
「お前の家、この辺なのか?」
「いや?でも次の曲がり角、曲がんねん」
貴志惟の質問を否定してから、もうすでに見えている曲がり角を指した。どうやら住宅街になっているらしい。その家の並びに硝は住んでいる。その解説を聞くと、彼はその住宅街を眺める。通路になってはいるが、一般車両通り抜け禁止の看板がある。淡い色合いの家の連なりは、いかにもいい家々といった感じだ。
「奥椙おまえ、何時からここに?」
「何時って・・・、生まれた時からここやで」
つまりは数えで十七年以上は昔。それにしては、どの家も綺麗な外観だった。
作品名:Heart of glass 作家名:神田 諷