Heart of glass
「一つ目の時間。この時間帯に不良が歩くのは非常に珍しい。なぜなら、通常もう少し後の時間に大量の不良が動き出すからだ。一般人にもつっかかるほど体力がありあまっているなら、喧嘩かなんかで発散するだろ?つまり、わざとこの時間に出歩き、不良に出くわさないようにしてるわけだ」
貴志惟が一息入れる間に、少年が隙を突いた。
「その時間に不良が歩くことを俺が知らないのかもしれないぜ?」「そんなことも知らないのなら、不良じゃないだろ」
「不良にだって予定くらいあるだろ?もしその時間とかぶっていたら…」
「塾とかな」
目を丸くする少年に対し、貴志惟はにやりと笑った。実は、隙を突けたと思った質問は、すべて貴志惟の予想の範疇だったのだ。見事なまでに貴志惟の説明の手助けをしてしまったというわけである。
踊らされていたことに気付いた少年をよそに、貴志惟は話を続ける。
「二つ目の持ち物がそれを証明してくれている。お前の持っている手荷物。その持ち手に付いているキーホルダー。メタリックでカッコイイ一品だが、それはこの辺にある塾の『合格祈願』キーホルダーだ。あんまりダサいとみんなが持ち歩かないもんで、講師たちが話し合って変えたんだっけ?言われなきゃお守りだなんて思わねぇような、若者受けするデザインに。確か、女子はピンクのケータイクリーナー型、男子はカッコイイメタリックのキーホルダーだったよな?」
彼の質問に答える者はいない。が、それを彼は肯定したものだと受け取る。
「それは入塾者、しかもある程度出席してないともらえないはずだ。おかげで不良どもも、その一石二鳥のキーホルダー目当てに、塾に行くものが多くなって更生される奴が多いとか。賢い不良の量産なんて、まっぴらごめんだけどな」
あきれるような眼で、貴志惟は少年を見る。少年は悔しそうに貴志惟をにらみ返した。
作品名:Heart of glass 作家名:神田 諷