Heart of glass
「教科書一つ取ってくるのに、一体何時間かかるの?」
「教科書と問題集、二十一冊組が計四つで十五分…。一冊あたり大体十・七秒かかっとるな。早いほうやと思わへん?」
計算ミスの一つもない見事なあげ足に、教師も責める言葉を失ったようだ。そのまま席に戻れという言葉に従い、貴志惟はサッサと席に戻った。あとから硝が席に着く。
教師に勝って少し上機嫌な硝に、貴志惟は「いつもあんなこと言っているのか」と質問する。確かにあげ足は完ぺきだったが、教師に口答えするようなことが、このエリート校で起こっていることに驚いたのだ。すると硝は不思議そうな顔で、前の質問を肯定するセリフで聞き返してきた。
「浅井の学校、誰もせんかったん?」
しないというか、誰も授業をまともに受けていなかったので、教師があんなこと言うのも初めて聞いたのだが。しかしそんなことを硝に言ってもしょうがないと思い、貴志惟は言葉足らずに「しねぇよ」とだけ返しておく。すると硝は「ほぉ」と感心したあと、思わぬ言葉を返してきた。
「実は授業にすら出とらんかったりしてな」その言葉に貴志惟はびくっとする。
「こう…さっきみたいな質問されても、『無視ィー』とか」
中学時代の貴志惟の教室を見ていたかのような命中率を誇る思いつきの数々に、貴志惟は目を丸くして驚いた。自分程度の不良などいくらでもいるだろうに、なぜ不良の多い学校に通っていたことがばれたのか、そんなに解りやすいことなのかと、恐怖心とともに貴志惟は疑問を抱いた。私立ではなかったので、一応確認しておく。
作品名:Heart of glass 作家名:神田 諷