Heart of glass
「あ・・・いや・・・って、いったぁ!」
言い訳をしようと神経を戻したとたんに、彼の背中に激痛が走る。驚いた顔をしていた貴志惟も、わざと大きくため息をついた。
気まずそうに体制を直す硝をよそに、貴志惟は硝の行動について考える。手を振り払ったあとの硝の顔は、どう見ても驚いた顔をしていた。自分の行動に驚いたということは、あの行動が無意識だった証拠である。荷物を取ることに成功した硝は、悪いことをしたと思っていることが前面に現れたような表情で、貴志惟に目を向ける。自分が悪いことをしたという自覚がある以上、やはりあの行動を起こした意識は生来のものではない。生来のものならば、悪かったなどと考えることはないだろう。
貴志惟が例の問題を解こうと頭を回転させているのに対し、硝は罪悪感にあふれた瞳で彼を見る。硝は先ほどの対応が原因で、貴志惟が怒っていると勘違いをしてしまったのだ。とりあえず今の状況を乗り切るにはこれしかないと、頼まれていた教科書の山に手を伸ばす。自分が倒れたせいで、いいのか悪いのか、手前に積まれていた教科書の山がくずれおち、今回はバランスを失うことなく手が届いた。そのまま腕力だけで持ち上げてなんとか教科書二束と問題集二束、計四束を取ることに成功した。
硝は先ほどのことをごまかすように大きな声で喋る。
「さ、浅井!さっさと教室に運ばなあかんで!」
「んな声出さなくても聞こえるって」
初めと変わらぬ不機嫌そうな声を出した貴志惟に、硝は少し安堵した。
作品名:Heart of glass 作家名:神田 諷