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Heart of glass

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「ま・・・間に合うた・・・」
 入ってきたのは硝だった。昨日よりはマシとはいえ、学習能力はないものかと、貴志惟はため息をもらした。入ってきたばかりの硝は、席に着くなり貴志惟のため息に反応を示す。
「なんやねん、そのため息!」
 その反論を貴志惟はきれいに流した。硝もそれ以上は無駄だと判断したのか、少し文句を言っただけでそれ以上は何も言わなかった。
 教師が入ってくると、まず一番に硝に視線を移した。身長もさながら座高で右に出るものはいない硝は、見つけやすくまた、いなくても気付くのが早いのだ。しかも内部生であって顔見知りの教師も多く、性格も気さくなので覚えられていることが多い。
「奥椙君、何時来たの」
「ああ、今さっきです。すべりこみでセーフだったんやで」
「そういうことは言わなくていいのよ」と笑いながら答えたあと、教師は教材を取ってくるようにと硝に命じた。おそらく遅刻した罰のようなものなのだろう。しかしその際、一人で運べる量ではないので、誰か一人助っ人を連れて行けと言ったものだから、その火の粉は貴志惟の方にも飛んできた。
 文句の一つでもいいたい気持ちであふれかえる貴志惟をよそに、硝は満足げにニコニコと笑っていた。まったく空気を読む気のない硝に、彼には本当に空気を読む力がないのではないかと、貴志惟は本気で疑う。
 この時期、教材置き場として利用される教室は三つある。一つ目が自習室、二つ目が応接室、そして三つ目が今から教材を取りに行く資料室だ。一年生の教材は、当たり前だが一番多いので、ほとんどが一番広く、あまり利用されない資料室に置かれるのである。しかし悲しいかな資料室は二人のいる一年一組の教室から少し離れていて、一号館と二号館の共有教室となっていた。
 場所を知らない貴志惟は、ふらふらと教室を探し歩く。ふいに硝がベランダを指差した。ちなみにこの学校には、教室側だけではなく、廊下側にもベランダが存在し、三階だけが二号棟と一号棟をつないでいるのだ。それは一日目に通った、あの野外通路のことである。
作品名:Heart of glass 作家名:神田 諷