Heart of glass
「あれ?意外とまずいなぁ」
「バナナ・オ・レの問題じゃねぇだろ」
「せやかて・・・、洋食弁当の方が良かったんかな?」
「だろうな。少なくとも和風にゃ合わんだろ」
また何か言い返してくるかと思った貴志惟の予想に反し、硝は「やっぱり」と落ち込んだだけで終わった。なんでそんなことに気付けなかったのかは解らなかったのかと、貴志惟が硝の脳の構造を一時的に疑ったのは言うまでもないだろう。
放課後。放課後用にとって置いたクリームパンを食べながら、貴志惟は今日の一、二時間目の授業内容を教えていった。貴志惟の説明は通常でもつたなく、驚くほど下手だというのに、さらに物を食べながらなので、そうとう酷かった。しかし持ち上がりである硝の頭は、悪いどころか非常に優秀なので、きちんと理解してくれた。
「・・・つまり、『通り魔がおるから気ぃつけろ』っちゅーことと、『教科書は明日配られるでー』っちゅーことかな?」
必死に話を思い出しながら長々と説明をしたにも関わらず、貴志惟の努力は硝の一言に収まってしまった。それが悔しくて、地味に追加をほどこす。
「・・・あと授業の開始時間とかの話だ」
「ああ、それは中等部と何一つ変わらんさかい、あんま関係ないわ」
貴志惟の最後の抵抗を、硝は先の一言の中に含めてしまった。貴志惟はいらだちと共に、説明中もずっと頭の中を回っていた「なんで俺が」という考えの、くり返す回数を二倍に増やす。ついでに「そんなこと知るか」という考えも追加した。
不機嫌極まりない貴志惟に、硝は無謀にも一緒の下校を申し出てしまった。そのため、貴志惟の堪忍袋の緒が盛大な悲鳴を上げる。
「・・・お前、空気が解らない人種か?」
静かに怒りだした貴志惟に対し、硝は愛嬌のある笑顔でなぜか彼に説いた。
作品名:Heart of glass 作家名:神田 諷