Heart of glass
「やっほー、俊介(しゅんすけ)。あ、それ今日の戦利品?」
「そ。で、珍しい客だな。浅井だろ?」
「そういうお前は赤穂(あこう)だろ」
彼こそが多田の弁当待ちの元凶である、赤穂俊介である。
瞬時に名前を答えた貴志惟に、俊介は「よく覚えてるね」というふうに感心した。さすがにこうなってしまったら、出席番号が自分の前だからたまたま覚えていたとは言えまい。そんな貴志惟の心情を知らない義章が、同意してから追加する。
「俺の名前も知ってたんだよ。オクスケに聞いてたみたい」
「ああ、持ち上がり全員の名前を知ってることで有名な、あの彼ね。外部のも徐々に把握済み、か?」
外部生の俊介でも、入学早々有名になった二人の噂を知っていた。特に情報の多い硝に関する噂はかなりの数を耳にしている。とはいえ、覚えているのは、それが一番多く聞いた噂だからにすぎないが。
それはともかく、硝はああ見えてずいぶんと頭がいいようだ。しかしそれもそのはず。神鷹学園が初等部から大学部まで続いていることは先に説明しただろう。しかし、誰もがみんな順調に進学できるわけではない。それぞれにノルマが存在するのだ。まず、初等部から中等部への進学は学年順位が半分以上でないと公立行き。また、中等部から高等部への進学などは、学年順位の三分の一以上でないと不可能だ。そして高等部での学年順位が四分の三以下なら、大学に進学することが出来ない。つまり、初等部から通っているという硝や義章の頭がいいという情報は、神鷹の生徒なら誰もがわかる情報なのだ。
それに比べ、受験勉強を幼馴染みにしごかれてやっと通った貴志惟の知能は、おそらく下からカウントしたほうが早い。どちらの頭がいいのかは、情報さえあれば誰が見ても明白だ。
弁当を広げながら、俊介が硝の記憶力に感心する。
作品名:Heart of glass 作家名:神田 諷