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Heart of glass

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「奥椙は徒歩通学なんだな?」
「え?ああ、そうだよ。どうしたの、急に」
 驚いた義章をよそに、貴志惟は考えを巡らせた。ちなみに自転車通学だった場合、自転車置き場が少し離れたところにあり、その道なりにコンビニがあるため、弁当をわざわざ持ってくる必要は無い。コンビニが使えないのは、自宅通学者か寮生活者くらいだ。
 一方、硝は購買部に向かって歩いていた。ごった返した購買部は、硝にとってはもう見慣れた光景だったが、この中に入ったことは、まだ数えるほどしかない。
 一呼吸置いていざ入ろうとしたとき、ベランダに奇妙な色を見つけた。緑色のすのこが敷かれているところに、鮮やかな赤い色があったのだ。それを見た硝が恐る恐るベランダをのぞくと、やはりこの間から何度か目にしたあの赤髪の少年だった。体操服や上着だけでなく、ワイシャツまでも校則違反の黒色。どこまでも不良な少年のようだ。やっぱり教師達も恐ろしくて注意できないのだろうと、硝は昨日と同じことを推察する。彼は髪の色をきわだたせるように色素の薄い瞳を硝に向けてきた。瞳の色はハーフの人に多い、灰色のような黄色のような色だ。それはとても綺麗な色で、地の色というよりはカラーコンタクトを思わせる。しばらくその不思議な色に魅了されてしまったが、相手が不良であることを思い出した硝は、過剰なそぶりで目をそらして購買部という戦場へ向かっていった。
 悩んだ結果、一番さっぱりとしていそうな和風弁当を手に取った。飲み物を持っていなかったことを思い出し、さらに彼は飲み物売り場に目をやる。そして今度は迷わず黄色のパックの飲み物に手を伸ばした。見ずに取ったそれと同じものをもう一本取り、購買のおばさんに渡す。
 会計を終えた硝は、再び同じ道を通り教室へ戻る。しかし行きに見たあの、赤い髪の少年はすでに姿を消していた。
 義章から様々な情報を仕入れていた貴志惟の頭に、ドスッと何かが置かれた。クラスメートの一人が購買で買ってきたばかりと思われる温かい弁当を、彼の頭の上に乗せたのだ。その人物に、義章がゆるく手をふった。
作品名:Heart of glass 作家名:神田 諷