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Heart of glass

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「来るだけ無駄だったんじゃねぇの?」
「ええやんか。俺が行かんと、お前が一人で昼飯食わなあかんなぁ、って思って来たんやで!」
「転嫁すんな。べつに俺は一人でも平気だ」
 冷たい貴志惟の態度に、硝はこれ以上言っても無駄だと判断したのか、ため息をついてから自分の椅子に座った。カバンを横にかけ、中身を探る。普通より少し小さめのルーズリーフ用紙を取り出し、再びカバンの中を探りだした。かと思いきや、唐突に頼みこんできた。
「浅井っ、悪い!何でもええから、書くもん貸してくれへん?」
「・・・何でも良いんだな?」
「・・・できれば黒のシャーペンと、消しゴムなんかもつけてくれるとありがたいです」
「ぜいたく言うな。消しゴムは普通一人一個しか持ってねぇだろ!」
 苦情を言いながらも貴志惟は、シャープペンシルを硝の机に勢いよく置いた。それを受け取った硝は、芯が入っていることを確認してから「おおきに」と笑いながら礼を返す。硝の笑顔には本当に毒がない。嫌味なまでの人の良さが出ている。なんでこんなヤツがわざわざ自分に付き合っているのかと疑問を抱く。いや、実際は貴志惟が付き合わされているのだが。
「なんでお前みたいなムードメーカーなヤツが俺にかまうんだよ・・・」
 ただの独り言だと、解りながらも、硝はわざとそれを拾った。
「なんやおかしい事か?」
「おかしいだろ。お前みたいに人付き合いのうまいやつは、俺みたいな人からひかれるヤツじゃなく、普通のグループに入るのが普通だろ」
 無意識に普通という言葉をくり返す貴志惟に、硝はおかしさを覚えた。貴志惟は人付き合いが苦手なことをコンプレックスとして持っているらしい。それを逆手に硝は冗談めかして返す。
作品名:Heart of glass 作家名:神田 諷