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Heart of glass

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ムードメーカーとムードブレーカー


 二日目。またうるさく声をかけられることを予測して、面倒くさそうに教室のドアを開けた。相変わらず騒がしい教室だったが、そこに硝の姿はない。貴志惟は少し疑問を抱いて、周囲を見渡した。すると、また多田(ただ)とかいう男と目が合う。今回彼は笑ってはいなかった。それ以外に特に珍しいことはなく、貴志惟は硝の不在に驚きつつも席につく。
 担任が入ってきて、朝礼が始まった。連絡の中にある欠席者の名前に耳をすます。
「欠席者は飯田、櫻井、渡辺」
 奥椙という名前は入っていない。連絡は入っていないようだ。貴志惟は他に何かないのかとさらに耳をすました。が、そのほかの連絡は、今朝テレビで報道されていた近辺での通り魔事件だけ。「まさか事件の被害者なのか?」とも思ったが、やはり何の連絡もないのがおかしいことに気付き、その思いをかき消した。
 朝礼後、いつもなら硝の相手で疲れるくらいなのに、その本人が休みなので、貴志惟は暇をもてあましていた。できないことが悔しくて地味に練習した鉛筆回しを、シャープペンシルで代用して遊ぶ。そんな時、硝の席に誰かが座る。一瞬硝が来たのかと思った貴志惟だったが、その身長が明らかに小さいことに気付き、違う人物だと判断した。そっぽを向いたままの貴志惟に、隣に座った人物が話しかけてくる。
「浅井、今日オクスケは?」
「・・・オクスケ?」
 奇妙な呼び名にいぶかしげに、思わず対象に視点を合わせる。ニコニコと笑う彼は見覚えのある面立ちで、そこでふと名前を思い出した。が、貴志惟が確かめる前に、彼は自分で名乗りをあげる。
「ああ、俺は多田ね。多田義章」
「聞いてる。で、オクスケって何なんだ?」
「ああ、それは奥椙の小学部からのあだ名なんだ。幼馴染みの二人がそう呼んでてね」
 それを聞いた貴志惟は、その幼馴染み二人から聞けないものかと尋ねる。が、義章が言うには、片方はすでに海外に、もう片方はこの学校にいるものの、硝とはしばらく連絡を取り合っていないのだそうだ。
作品名:Heart of glass 作家名:神田 諷