Heart of glass
『それは困ったね』
久々に会話した相手は、淡々とした感想を返してくる。
何とか硝をまいて帰った夜、貴志惟に幼(おさな)馴染(なじ)みから電話がかかってきた。面倒見のいい幼馴染みは、貴志惟の人間関係の苦手さを気(き)遣(づか)うことが昔から多く、今回もそのための電話だった。そこで思わず貴志惟は毎日追っかけまわしてくる硝の話を持ち出してしまったのだ。先ほどの感想は、それを聞いた幼馴染みのものである。
あまりにひと事な感想に、貴志惟は勘弁してくれとため息をつく。
「そうじゃなくてな・・・」
『じゃあ何をしてほしいわけ?』
幼馴染みのもっともな疑問に、貴志惟は何も返せずに悔しそうにうなる。電話越しに相手のあきれた様子が伝わり、余計に何も言えなくなってしまった。その様子が伝わったのだろう。幼馴染みは言い聞かすように丁寧に尋ねてきた。
『社交性のない君には必要な人材なんじゃないの?』
「社交性なんて必要ねぇだろ」
『社会に出る上で社交性がないなんて致命傷だよ』
そういうと、幼馴染みは電話を切ってしまう。言い返す前に切られた貴志惟は、不満をそのままに受話器を思いきり投げようとして、しかしそんなこともできず渋々本体に戻した。
作品名:Heart of glass 作家名:神田 諷