Heart of glass
「さあ!今日こそ一緒に帰るで!」
「嫌に決まってんだろ」
意気ごむ硝を貴志惟は一蹴する。入学して懐かれてからいつもこうだ。どうにかして一緒に帰ろうと模索してくる。あきれ顔で硝のほうを向いた彼の視界に、先ほどの謎の少年が入ってきた。知っている確率は三分の一以下だが、硝に聞いてみる。
「なあ」
「なんや?」
「あいつって、内部生か?」
「あいつ?」といった硝は、貴志惟の視線を追う。そして行き着いた少年を見て、「またなんでこいつに興味を?」というような顔で貴志惟に視線を戻した。その疑問に対して先ほどの話をすると、硝は合点がいったようで、素直に話してくれる。
「あいつは多田や、多田義章(よしあき)。ご推察の通り内部やで。なんで笑っとったんかよう知らんけど」
どうやら硝もたいした面識はないらしい。名前が分かったところですでに少年、多田への関心をなくし、貴志惟は荷物を肩にかけた。
神鷹学園では制服はあるが、カバンは個人の自由が許可されていた。許可されているだけで、存在しないわけではない。そのため、センスに自信がないとか、どうせなら制服にあったものをとか考えてる者は、特製のカバンを使用している。ちなみに貴志惟はリュックサック、硝は特製のカバンを利用していた。
話がそれたすきに、貴志惟は逃げ出した。
「あ!どこ行くねん!」
貴志惟を追いかけ始めた硝の前に、先ほど目の合ってしまった、火のような色の髪の少年が姿を現した。そのまま通りすぎようとしたとき、ボソッと彼がつぶやく。
「一学年第一組出席番号八番奥椙硝」
思わず硝は急ブレーキをかけ、赤髪の少年のほうを見た。外部生のはずの彼が、どこでどうしてそんな情報を仕入れたのか?飄々と去って行く彼を、硝は呼び止めることもできずに見送ってしまった。
作品名:Heart of glass 作家名:神田 諷