Heart of glass
「勝負や!」
「受けて立つよ」
硝に対し自信満々に言い放ったのは、先ほどから貴志惟の視界に入っていた、あのルックスのいい少年だ。硝は彼の前に立つと、自分の身体測定記録カードを見せつけた。少年の視線はカードに書かれた身長にいく。
「百八十六・二センチや!」
自信満々に言い放った硝に対し、少年はニコニコ顔で自分の身体測定記録カードを硝の眼前にかざす。それを見た瞬間、硝が固まった。
「百八十八・二センチ。ちなみに座高は八十九センチ。今回も俺の勝ちだ」
「な・・・っ!嘘や!また負けたなんて・・・!しかもまた二センチ差かいな!」
「座高の八センチ差も変わんないねぇ」
「なんで座高が八センチも勝っとんのに、身長が五センチ負けとんねん!」
爽やかに笑う少年に背を向け、硝は文句を言いながら貴志惟と別れたあたりに向かって歩き出した。
一足先に教室に帰っていた貴志惟に、責めの言葉が何度も何度も送られる。勝手についてくる奴をいちいち待つほど、貴志惟の性格は善良ではない。むしろ短気である。いい加減うるさくなってきた貴志惟は、数多い相手のセリフに対して一言で返した。
「で、結局なにが言いたいんだ?」
「せやから、なんで先に帰ったん?」
「身長の高いお前には一生かかってもわかんねぇよ」
「身長関係あらへんわっ!」
涙目の硝の主張を、貴志惟は軽く無視をした。ふと貴志惟の視界に、笑いながらこちらを見る人物が映る。初日に硝に興味を持ち、話しかけていた内部生と思われる少年だ。地味だが、決して特徴のない顔ではない彼は、貴志惟の視線に気付くと少しびくりとして、視線をそらした。貴志惟の脳が、彼の正体に疑問を持つ。
その日は明日の予定の報告や係決めの話し合いなどが行われ、すぐに帰りの時間となった。
しかし、貴志惟にとってこの時間が一番大変なのだ。何故なら、原因は隣の席の眼鏡君にある。
作品名:Heart of glass 作家名:神田 諷