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炎舞  第一章 『ハジマリの宴』

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 周囲は紅蓮の炎。
 風の結界で護られているのにも関わらず、八方から弾けてくる熱気。荒い波が打ち寄せるがごとく、炎が二人に迫っていた。
「くそっ! このままじゃ身動きがとれねぇ! 何とか突破しねぇと―――」
 風間が声を上げると同時に風と炎の壁の向こうで、涼やかな目をしたままの冷の右腕が細い腰の位置まで上がった。そして追い撃ちをかけるかのように、その手の平に新たな火球が生み出される。
「一か八か、結界を解いた隙にバラバラに離れた方がいいみたい」
「みてぇだな……気をつけろよ、嵐」
 冷の次の行動を確認した二人は、額には冷や汗、口元には笑みみたいなものを浮かべ、言葉を交わした。
「よし、行くぞ―――!」
 二人が意を決したその瞬間。
「!?」
 冷は何かを感じとったかのように僅かに眉を顰めて、手の平の火球を握り潰しその場から後ろへ跳んだ。
 ビュッ!!
 空気を裂く音。
 余裕にかわしたはずだった。しかし〝それ〟は瞬時に距離を詰め、再び眼前に迫ってくる。咄嗟に首を振り、ぎりぎりかわすと、頬に何かが掠る感触が伝わった。
(これは―――水?)
 立て続けに跳ね飛びながら、冷は自分の勘が正しかったことを知る。周囲を見渡すと、もうもうたる水蒸気の霧が立ち昇り炎が消えていた。
 気配を感じ、冷は少し振り返る。
(誰だ)
 すると、目の前の夜空に浮かぶのは、にこりと笑う女子中学生。
「わ・た・し❤」
 美世が人差し指を冷に向けると、突如彼女を取り囲むように発生した水が槍の雨のように冷へ降り注ぐ。
「天神三人組の一人、『水使いの美世』だよ! 避けないと死んじゃうからね、アハハ!」
 刃物さながら鋭く尖った水は容赦なく冷の身体を貫こうとするが、冷は避けることはしなかった。右手で目の前の空気を撫でるように動かすと、ゆらりと鬼火が生まれ、水の槍へと向かわせ互いが爆ぜる。
 その衝撃を肌で感じて、ヒュウと、楽しそうに美世が口笛を鳴らした。
 ヒウッ…!
 空気を裂く音とともに、風間の槍が舞う。
「…浅い」
 嘲笑まじりに呟いた冷の鼻先すれすれを切っ先が掠めた。常人には霞んで見えぬほどの一撃だったが、重心をわずかに後ろへ移しただけの、紙一重の見切り。そして風間が舌打ちをしながら後ろへ飛び退ったと同時に、冷が一つの火球を放つ。
「おおおっ!!」
 咆哮をあげながら、風間は槍で火球を真っ二つに両断した。二つに裂かれた火の玉が桜の花びらのように散って消え、
「自己紹介がまだだったな! オレは天神三人組の一人『風使いの風間』だ!」
 衝撃波を横一文字に放つ。
「もうっ、風間ちゃんたら獲物奪んないでよ!」
 後ろから嬉々として、美世が攻撃を重ねた。風と水が融合し、唸りながら冷へと迫る。凄まじい速さと力の渦に、かわしたはずの冷の頬は裂け、痺れるような衝撃が残った。白い肌から一筋の血が流れる。
 冷は眉間の皺を深く刻み、すっと右手を掲げた。早口で呪文のようなものを唱え、その手の平が風間と美世に向いた瞬間、
 ぼふっ―――!!
 爆裂する。
 咄嗟に張った美世の水の結界がなければ、今頃風間と美世は灰になっていただろう。しかし防いだはずの結界は衝撃とともに弾け飛んで、紅蓮の炎は二人を強烈に打ち据える。美世は悲鳴をあげ木に激突し、昏倒した。背中をひどく打ちつけた風間はしばらく息ができず、地面で身体を捩じらせながら苦痛の表情で炎の壁を見据える。燃え盛る炎の向こうで、炎と同じ色の目を持つ男が遠くから冷ややかに見下ろしていた。
 ゆっくりとこちらに近づこうとする冷だったが突如、左腕を鎖に捕らえられ、視線をそちらへ外す。そして風間の視界から消えた。
「……あ、らし……」
 喘ぎ混じりに立ち上がろうとする風間だったが、気息を整えるのに精一杯で、ガクリと膝をついた。