表と裏の狭間には 十五話―球技大会―
「だよねー。どこまで運動得意なんだって話だよ。これじゃボクが駄目な人間に見えるじゃないか。」
「あー………あいつらに比べられたら、な………。」
「私もちょっと………。」
雫も同意する。
コートに目を向けると、輝が『岩崎パスをとくと見よ!』とか言いつつ、倒れこみながらパスを出すという妙なパスを繰り出していた。
それを受け取った耀が、難なくシュートを決め、更に点が追加される。
相手チームは頻繁に交代を繰り返しているが……無駄に終わっているな。
そのまま二点、四点と、どんどん点を重ねていく。
前半終了時の総得点は、14点だ。
そして、五分間のインターバルに入る。
「皆お疲れ様!」
「なに、大したことはねぇな。」
「余裕っすよ!」
「兄様の言うとおりなの。」
「……あとは、そっちの仕事。」
「わっちは早くシャワーを浴びたいなー。」
五者五様の回答だった。
「じゃ、煌は後半もよろしく。」
「おう。」
「それでは、あたしたちも行くわよ!」
「「「おお!」」」
俺と、レンと、雫。
三人が、コートに入る。
さてさて。
五年前は、俺とレンが揃っていれば、何をやっても無双状態だったんだが。
そこに雫を加えれば、最早無敵だったんだけど。
永いブランクを経た俺たちの連携は、どうなるのやら。
「レン、雫、やるぞ!」
「任せたまえ。」
「頑張ろうね、お兄ちゃん!」
結論から言うわ。
あの三人、どこまでチートなのよ。
前半で輝たちがあれだけパスを回して翻弄していたのに、あの三人は。
ほとんど直線的にシュートを決めに向かっている。
基本的に、紫苑がまずボールを奪い、それをすぐさま投げている。
適当に投げてると思いきや、その先には必ず、蓮華か雫ちゃんのどちらかがいるのだ。
彼女らがマークされていようが、全くお構いなしだ。
敵も味方も五人、あたしと煌のマークに彼らは最低一人ずつ割かなければならない。
だとすれば残るは三人。
ボールを持つ方に二人が向かうため、必ず一人はノーマークになる。
それを利用し、空いているメンバーにボールを回し、無駄なく直線的にシュートを決める。
あ、また入った。
これで早くも10点目だ。
あたしと煌から相手がマークを外せない理由。
それは、相手があたしたちを放って紫苑たちのマークに向かうと、すかさずあの三人がこっちにパスを回すからだ。
あの三人とまでは行かずとも、あたしと煌も無双状態だ。
並みの人間に抜かれることは、ない。
「レン!こっちだ!」
「はいよ!」
とか言いながら、実はボールは雫ちゃんのほうに飛んでいく。
かと思えば、
「レン、お願い!」
という声を聞いて、咄嗟に相手プレーヤーが紫苑の方に向かったのに、
「ナイスパス!」
蓮華のほうにボールが飛んでいってそのままシュートを決める、とか。
かなりえげつないわねあの三人。
そして、あの三人は、誰がどう動くのかが分かっているようだ。
例えば今、紫苑は三人に囲まれて身動きが取れない。
だが紫苑は、見もせずに後ろのほうにボールを大きく投げる。
その方向には敵がいるのに。
馬鹿なことを、と思ったが。
次の瞬間、蓮華が駆け込んで、ボールをキャッチ、そのまま放り投げる。
すると、ボールの先には敵が動揺した隙を突いて抜けた紫苑が待機していて、シュートを決めた。
そこで試合終了のホイッスルが鳴り。28対0の圧勝だ。
その夜。
大分住み慣れてきた我が家では、初戦の勝利を祝う宴会が開かれていた。
「乾杯!」
『乾杯!』
一応言っておくが、勿論ジュースだ。
この家には何故かバーがあるが(どうせゆりあたりが作ったのだろう)、俺は一度レンに嵌められて以来一度も近づいていない。
しかし、居間でテレビを見ているときにゆりたちが入っていくのを何度か見たので、あいつらはちょくちょく使っているのだろう。
飲むのはいいけど、バレたら一大事だぞ………。
あと、雫はこの事を知っているのだろうか?
レンに嵌められるのならまだしも、理子あたりに嵌められたら一大事だぞ………。
まぁ、心配してもせん無きことだしなぁ。
「しかし、あんたたちどんだけ強いのよ。びっくりしたじゃない!」
なんて、つらつらと考え事をしていたら、ゆりが話を振ってきた。
「あ?俺たち?」
「そうよ。紫苑と、蓮華と、雫ちゃん。後半あたしと煌の出番ほとんど無かったじゃない!」
「あー………。そりゃすまなかった。」
レンとのタッグ、そして雫も交えたトリオを久々――五年ぶりに組んだせいか、かなり舞い上がってしまっていた。
楽しくて楽しくて、ついつい、三人だけで試合を進めてしまった。
「ま、勝てたからいいんだけどね。次回はあたしももうちょっと運動したいなー、とか。」
「わ、悪かったって………。」
「別にいいわよ。あんたたちの連携は見てるほうも楽しかったしね。本当に凄いわよ。」
「そうっすね。僕が見てるアニメとかでもあそこまで連携してるペアは見たことないっすよ。」
……お前がチェックしてるアニメなんて日本産のほとんど全てじゃねぇかよ。
「……少し、羨ましい。」
羨ましいもなにも、礼慈も礼慈で理子といいコンビじゃねぇか。
なんて、他愛の無い会話は続き、夜は更けていく。
で。
「どうしてバーに連れて来るんだよ!」
「まぁまぁ落ち着きたまえ紫苑。勝利の祝杯を挙げようじゃないか。」
「今度は何をするつもりだ貴様!?」
「何もしないよ。」
「信用出来ねぇ!」
「雫ちゃんが見てる前であんなことやこんなことをしたいのかい?ま、君が望むのならそれもやぶさかではないが。」
そう。
ここはバー。
ここにいるのは三人。
俺と、レンと。
雫だ。
「どうして雫までここにいるんだ!」
「ボクが呼んだからだけど?」
頭を抱えるしかない。
ここはこいつには秘密にしておこうと思ったのに……!
「大丈夫だよお兄ちゃん。ここにお引越しした次の日にゆりさんに案内してもらってるから。」
「あの野郎!」
「ま、そういうことだから落ち着きたまえ。雫ちゃんは何を飲む?」
「えっと、この前ゆりさんに連れてきてもらった時に飲んだの………どれだか分かる?」
「どんなのだった?」
「えっと……、飲ませてもらうときに、ゆりさんが『蓮華には秘密よ』って言ってたような……。」
「ああ………。多分これだろ?」
レンがそう言って取り出したのは、前に来たときにも飲まされたあれだった。
「ったく………ボクの作った酒の減りがどうも早いと思ってたら、ゆりだったのか……。」
「あ、でも、一緒にいた皆さんも飲んでましたよ?」
「全員か!」
レンが絶望したかのように頭を抱える。
「あー………、レシピ公開しようかな……でもあいつらは絶対自分じゃ作らないし……、量を増やすか……予算下ろして貰わないと割に合わないぞ………。」
なんてぶつぶつ言っていたが、すぐに諦めたように頭を振り、酒をグラスに注ぐ。
「……肝臓死んだりしねぇだろうな………。」
飲むこと自体に抵抗はない。きちんと量をコントロールすれば、酔いつぶれたり二日酔いになったりはしないだろう。
だけど、アルコール依存症になったり、肝臓が終わったりするのは嫌だな。
作品名:表と裏の狭間には 十五話―球技大会― 作家名:零崎