表と裏の狭間には 十五話―球技大会―
ま、そこはなんだか知らないけど遺伝子やら脳の構造による物質の分泌やら、とにもかくにも人類の神秘勢揃いな原因があるらしいが。
ま、そんな難しい事は俺の知ったことじゃない。
というか、ゆりの話じゃ世界トップクラスの頭脳を突きあわせても解答が出ないらしい。
そんな事を俺がどうこう考えても始まらないしな。
「ま、耀が止める可能性はゼロっすけどね。」
「……そもそもゆりが止めに入るかどうかが怪しい。」
「だよなー………。」
やっぱり重量重視で鉄パイプにするか。さっき倉庫で見たし。あと黒いポリ袋と鋸とビニールシートと………。詰めたあとはアークの処理班に回せばいいか。敵の死体ってことにすれば処分してくれるだろうし、顔を焼いて歯を潰しておけば大丈夫だろう。まぁ費用の問題はあるが………職務の結果ってことにすれば、全額経費で落ちるだろう。ああ、指紋潰すのも忘れちゃ駄目か。というかDNA鑑定で引っかかるか?やっぱ自力で埋めるか?
「なぁ、お前本気で理子を殺そうとしてねぇか?」
「してるよ?」
「即答かよ………。」
煌がなんだかどん引きしているが、どうして引いてるんだ?
「まぁ、殺すまでもなく誰かが止めるっすよ。」
「……というか、理子を殺す気なら、ぼくが紫苑を殺す。」
礼慈、どうしてアークの銃なんか持っているんだ。
アークの銃はベレッタをベースにしているようで、9.1ミリ弾(アークのオリジナル)を使用、装弾数は15発。小説『緋弾のアリア』に登場するベレッタ・キンジモデルのように、フルオートと三点バーストも兼ね備えた高性能銃だ。
そんなものが何故ある。
完璧に先手を打たれた俺は、動けずにいた。
リーチ的にはバットの射程圏内だが、相手が悪すぎる。
俺は銃弾をバットで受けるなんて芸当は出来んぞ。
バットを振り上げて礼慈の顎に当てようにも、その前に銃で撃ちぬかれるだろう。
「……バットを渡してください。」
言われた通りにするしかない。
礼慈は、バットを受け取ると、ふう、と溜息をついて、銃をしまう。
「……まぁ。あちらも無事に済んでいるようですよ。」
確かに、妙な声や悲鳴は全く聞こえなかった。
ま、レンがいるし、大丈夫だとは思うけどね。
シャワーを浴び終えた俺たちは、学食へ向かった。
学校が無い日でも、学食は部活をやっている生徒のために開いている。
各々が注文を終え、頼んだ品々を持ってテーブルに集まる。
「なんというか、まぁ、いつも通りだな。」
ゆりは学食の定番、安定のラーメン。
今日は味噌味のようだ。
煌はボリューム満点のハンバーグ定食。
なんというか、まぁ、らしいな。
輝はうどん、耀はそば。
普通にきつねうどんときつねそばだ。
こいつらにしては普通だな。
礼慈はカレー、理子は………………………。
あー………………………………。
うん、まぁ、あれだね。こんなメニュー、学食にあったっけ?
雫とレンはサンドイッチ。
俺はヤキソバだ。
特記事項は特になしだが。
まぁ、この学食のメニューは普通にうまい。
ゆりが執心するのも分からなくもないな。
「やっぱりここのラーメンは美味しいわねー。」
本当においしそうに食べてるよ。
そのまま適当に雑談しつつ、食事を進める。
そして食事も終わりかけたあたりで、ゆりが話し始める。
「さて、大会は月曜日から始まるわけだけど。ここら辺で細かい話をするわ。」
ラーメンのどんぶりを脇に寄せ、何かがびっしりと書かれた紙を取り出すゆり。
「参加チームは32チーム。例年通り大会は五日がかりで行われるわ。試合時間は十分を二回、インターバルは五分よ。スタメンは煌、輝、耀、礼慈、理子の五人。後半戦は煌を続投して、あとは総入れ替えよ。前半は煌を砲台にしてパワーゲームを行うわ。試合開始直後は、とにかく煌に回しなさい。煌はとにかくシュートを狙う。これでとにかく点を稼いで。煌が数人がかりでマークされたら、マークが薄くなったペアを中心に切り替えていきなさい。後半戦はあたしと煌のペア、紫苑と雫ちゃん、蓮華のトリオの連携を重視するわ。
とにかくコンビネーションを重視したパス回しで撹乱して。シュートは狙えるようなら狙っていきなさい。無理はしなくていいわ。あたしたちに回ってくればあたしたちが決めるから。」
おお、随分な自信だなオイ。
完全なパワーゲームを企画していたよ。
「相手ごとの戦法は当日指示するわ。明日の練習は、煌はシュート練、他はパス練を中心にやるわよ。今日は解散、午後は自由時間ね。」
そういいながら、残ったスープを飲み干すゆりだった。
大会一日目。
一回戦、第五試合。
相手はチーム1-3、一年三組のチームのようだ。
ちなみに俺たちのチーム名は、そのまま部活名で登録されている。
『えー、球技大会一日目、一回戦第五試合、チーム1-3 VS 有閑倶楽部!』
アナウンスが入ると同時に、会場が大きく沸く。
俺と蓮華のいる、二年二組の連中も応援に来ているようだ。
多分他のメンバーのクラスメイトもいるのだろう。
コートの中央に整列し、相手チームと礼をする。
こちらは九人、相手は十人。
参加できる最高人数だ。
おそらくこまめな入れ替えで、メンバーの疲労を抑える作戦なのだろう。
試合の開始はジャンプボールから。
勿論、煌が臨む。
一年の生徒と三年の中でも背の高い煌では、背丈の違いが大きすぎる。
審判が笛とともに、ボールを高く放る。
煌が余裕でそれを叩き落し、輝がキャッチする。
試合、開始だ。
輝が駆け出し、相手チームがそれを追う。
相手の四番、五番が輝に迫る。
しかし輝は、鋭いパスを耀に回す。
それに気付いた六番が耀の動きを封じるが、耀はボールを受け取った途端にボールを高く放る。
六番の選手はすぐさま飛び上がるが。
相手のマークが外れた煌が駆け込み、高々と跳ぶ。
容易にボールをキャッチし、そのままシュートを決める。
ビビーッ!とホイッスルが鳴り、こちらのチームに二点が追加される。
すぐさま試合が再開される。
相手も一応練習は積んでいるようで、巧みなパス回しでこちらのチームを翻弄する。
だが、まだ甘い。
相手の四番にボールが回り、今にもシュートしようとしている。
四番は、決まったと思ったのか余裕の表情だ。
だが、甘い。
彼の後ろには、いつの間にか礼慈が追いついていたのだ。
これは、俺にも分からなかった。
気付いたらそこにいた、といった感じだ。
「キャップ!後ろにいるぞ!」
相手チームのメンバーが警告を飛ばすが、4番の選手がそれに反応する前に、礼慈がボールを奪う。
「……理子!」
「任せな!」
そのまま理子に鋭いチェストパス。
普段眠そうに気だるい態度をとっている彼とは思えない身のこなしだ。
パスを受け取った理子は、普段のおちゃらけた態度とは打って変わって、素早く敵を抜いていく。
二人、三人と抜き、そのままシュート。
ボールはゴールに向かい、ゴールの縁に当たって跳ね返された。
「おい!」
しかし理子は『分かってる分かってる』とでも言いたげに、余裕綽々でシュートを決めなおす。
前言撤回。やっぱり遊んでやがったあの女。
「いやー、皆強いね。」
隣に座っていたレンが話しかけてきた。
「強いとか言う問題じゃないだろ。話になってないぞ。」
作品名:表と裏の狭間には 十五話―球技大会― 作家名:零崎