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てっしゅう
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novelistID. 29231
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哀恋草 第六章 京入り

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みよはそういって、残っていたご飯を提供した。志乃はありがたく頂き、礼にかんざしをみよと光に与えた。思わぬ行為に感激し、厚く礼を言った。作蔵は疑うこともせずに、志乃を簡単に受け入れた。その容姿から間者とは想像できなかったからであろう。

食事が済んで光は志乃に一緒に湯殿に入ろうと誘った。少しためらった志乃は、みよが言った言葉に押されてそうすることにした。

「志乃殿、光は気の合う人と湯殿を一緒する事が嬉しいのですよ!変わっていますでしょう、ハハハ〜嫌でしたら、お断りなされませよ」
「そうなの・・・光殿はお美しいから私など恥ずかしゅうて・・・」
「そのような事はございませんよ!さあ行きましょう」
光に押されて湯殿に歩いていった。志乃も経験のない石造りの大きな風呂であった。初めて入るその湯は温泉のごとき心地よく、志乃の身体をほぐしてくれた。

「いい気持ちでございます。それにしても光どのはお幾つになられまする?」
「はい、十六でございまする」
「なんと!そのように若いのですか。すっかり大人のお体・・・志乃はそなた様より十も上なのに・・・恥ずかしゅうございまする」
「お褒め下さっているのですか?嬉しゅうございます。志乃さまはどちらからこられたのですか?」
「・・・はい、京に身を寄せておりましが、吉野にいる叔父が病に臥せっておると聞き、尋ねる途中でございました。生まれは・・・伊豆でございます」
「伊豆?それはどのようなところですか?光はここの近くでございますので、世間を知りませぬ」
「そうでしたか、東の国にあるのですよ。海が近こうて、富士の山が良く見えまする」
「富士の山?それは大きいのですか?」
「この国一と聞きます。頂上は雲に隠れる高さですよ!」
「本当ですか?一度見てみたいものですね」

会話は弾んでいた。すっかりと打ち解けあった志乃は、風呂に一緒に入ってよかったと思えた。久しぶりに純真な光の心に触れて、自分がしている役目を辛く思った。自分も昔は光のように純真だった・・・からだ。この子には自分と同じ道を歩んで欲しくないと心底思った。