Super Girl
「そこの男! そこから動くなよ。一歩でも動いたらこのババアがどうなっても知らねぇからな! オラァ! 金をだせっつってんだよ!! さっさとしやがれ!!」
いくらなんでも距離がありすぎる。
これはおとなしくするしかない。
私が諦めかけたとき、傍にいた娘が一歩二歩と男に近づいた。
「ねぇ、人質を代わるわ。お婆ちゃんは放してあげてよ」
……娘よ、それは大変すばらしい行動だ。
だが、目の前にいる親の気持ちも考えてみてくれ。
私のそんな考えを余所に、男はあっさりと人質を交代した。
「金はまだか!! はやくしろ!!」
娘の首に包丁が突き付けられている。
……にゃろう。娘に掠りキズ一つでも付けてみやがれ。生きて帰さねぇ。
娘は包丁を首筋に添えられながらも怯えた様子を見せず、何かを訴えるようにじっと私を見ていた。
男の気を引けと? 一体何をするつもりだ?
とにかく男の気を引くために話しかけることにした。危険だがそれ以外に何ができよう。まったく、その度胸は誰に似たのやら……。
ハッキリ言うが、私にそんな度胸は無い。
「逃げられると思っているのか」
ドラマのようなセリフだと思った。昨日の再放送のドラマを見ていて良かったとも思った。
「お前は黙ってろ!! 金はまだか!!」
「こいつはお前の仲間か?」
いつのまにか気絶していた男を指差し、男の注意を逸らそうとしたが、男は完全無視を決め込むことにしたようだ。
「こいつを一瞬で仕留めた俺が何者なのか、気にならないか?」
これは自慢になるが、私の格闘術はタダモノではない。もちろん、歳を考えておかないと後で泣くことになるのだが。
男も私を不審に思ったのだろう。ほんの一瞬だけたじろいだ。
よし、もう一押しだ。
「俺のこいつとお前の安っぽい包丁、どっちがはやいかな?」
私は左の懐にいかにも銃があるかのように振舞った。僅かだが興奮状態にある男には充分なハッタリだったようだ。私の演技力に磨きが掛かったということだろうか。
男は包丁を私の方に向けて何かを叫ぼうとして口を開く。包丁が娘の首筋から離れた瞬間、私は信じられない光景を目の当たりにした。
「美樹……なんてことを……」
作品名:Super Girl 作家名:村崎右近