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Super Girl

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「大丈夫よ、美樹。飛行機には充分間に合うから」
 妻がなだめているが、飛行機に乗るまで娘の機嫌が直ることはないだろう。

 銀行の開店時間に合わせ、一番乗りで行内に入った。一人でいいと言うのに、娘がついてきている。
 ガキの使いではないのだ、何を手間取ることがあろうか。だが、これ以上娘の機嫌を損ねると取り返しのつかない事態になってしまいそうなので、何も言わない方が良いだろう。

 窓口で『一』と書かれた番号札を受け取り、待合のソファーに座る。
 私の隣に娘が座り、さらにその隣には『二』と書かれた番号札を持った老婆が腰を下ろした。
「おはようございます。今日はポカポカしたいい天気ですね」
 娘が老婆に話しかけた。
 少し驚いた表情を見せた老婆は、すぐにしわしわの顔をもっとしわしわにして微笑んだ。
「おはようございます。今日は良いことが起こりそうね」
 そんな娘の姿を横目に見ていると、一番がコールされた。
 私は心なしか早足で窓口に向かった。

「――円で間違いありませんか?」
 はい。と答えようとした瞬間、入り口の方から悲鳴が聞こえた。
 そして次の瞬間、隣の窓口に銃を手にした男がものすごい勢いでやってきた。その男が口にした言葉は、例に漏れず『騒ぐな!金を出せ!』であった。

 ―― 不運な男だ。

 私のことではない。この銀行強盗のことだ。
 塀の中で私の左側に立ったことを後悔するといい。
 銃を向けられている窓口嬢に目で伏せるように合図し、私は行動を起こした。
 一呼吸で男の懐に入り、銃を構えることでがら空きになっている右脇に、渾身の右掌底を捻じり込む。
 間違いようのないしっかりとした手応えが返ってくる。
 男は声も無く身をよじる。
 そのまま体を男の背面に移動させ、掌底を放った右手は男の胸から首にまわし、男の右手を締めあげ、一気に極める。

 持っていた銃は、カラカラと軽い音を立てて床に落ちた。どうやらモデルガンだったらしい。人騒がせな奴め。

 男はぐったりと力なくうなだれている。最初の一撃で終わっていたようだ。
 私が男を解放すると同時に、再び悲鳴が起こる。
 それは待合ソファーの方向からだった。

「!!」

 私が振り向いたとき、先ほど娘が話しかけていた老婆が包丁を突き付けられていた。
 二人組だったのか。迂闊だった。
作品名:Super Girl 作家名:村崎右近