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雨宮 レイ
雨宮 レイ
novelistID. 31607
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ユートピア

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『生と死の境界線上』から、『死』の方向を見下ろす。

たしかにここを一歩踏み出せば、ひと思いに死ねそうな高さである。

僕はしばらくその『死』の方向を、立ったまま見つめていた。



「何してるの?」


不意に後ろから声が聞こえた。『生』の方向へ振り返る。

すると、フェンス越しに、僕の学校とは違う制服を着た高校生ぐらいの女が立っていた。


「何、してるの?」


彼女は怪訝そうな顔でもう一度、僕に尋ねた。


「ああ……一ヶ月前にここで起きた自殺事件知ってる? 

あれ、俺の友達なんだ。あいつはいつも言ってた。

『死ねばユートピアに行ける』って。だから、俺も行きたいんだ。

『ユートピア』に。このくだらない世界から解放されたいんだ」


「つまり、ここから飛び降りて死ぬつもりだったの? 

でも、死んだって、人は、無になるだけよ。そんな世界存在しないわ」


彼女は、僕の目を見て、少し笑いながら言った。

「違う、人は死んだら『ユートピア』で生まれ変わって、

何の苦しみのない幸せな暮らしができるんだ。

嘘をつき合ったり、傷つけ合ったりするこの世界とは違ってね」


「少なくとも、自殺で死んだ人が、そんな素晴らしい世界に行けるわけがないと思うけど。

自分で自分の命を絶った愚か者なんかではね。

あなたもその友達も、「死」が怖かったんでしょ? 

だからそんな空想で自分自身を慰めてたんでしょ?」


彼女は僕に近づいてきた。フェンス越しまで。


彼女は僕の目から目線を外さない。僕はその目が怖くなって下を向く。


作品名:ユートピア 作家名:雨宮 レイ