ユートピア
友達が死んで、一ヶ月が経ったある日。僕はここに来た。
ここは意外にも高くて、遠いところまで見渡せる。
町の灯り。行き交う人々。車。雑居ビル。
しかし何処にも『ユートピア』は視えない。
季節は今、冬なので吹く風が冷たい。まして夜ならなおさらだ。
体が震え、歯がガチガチと音を立てる。だが、不思議と寒さは感じなかった。
目の前にある二メートルぐらいのフェンスをよじ登り、ようやくここに立つことができた。
友達も以前、立っていた場所。
『生と死の境界線上』
友達も以前、飛び降りた場所。本当はすぐにでも行きたかったが、
自殺事件のおかげで、つい最近まで立ち入り禁止となっていたから、
ここに来ることはいままで出来なかった。
しかし、一ヶ月も経てば、高校生が一人自殺した程度の事件なんて、すぐに風化する。
立入り禁止も解かれた。だから僕はここに来た。