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月の彼方に

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そして迎えた翌日、美帆が月に帰る日。
夜になって、月が顔を出すと、春馬は我慢できなくなって家を飛び出した。
せめて、最後にもう一度会いたかった。
会って見送ってあげたかった。
美帆が平原で待ってくれている……そんな気もした。

平原にたどり着いた春馬の耳に何かが聞こえて来た。
それは美帆が奏でるあの旋律。
「美帆だ……!」
嬉しくなって春馬は駆け出した。
美帆がいつも笛を吹いていたあの木に向かって。
しかし、木にたどり着いても、そこに美帆の姿はなかった。
笛を吹いていたのは見知らぬ女の人だった。
春馬に気付いてその人はこちらに顔を向ける。
……なんだか美帆に似てる気がした。
「あら、あなた春馬君?」
突然見知らぬ人に名前を呼ばれて春馬は驚いた。
「……なんで僕の名前を?」
その言葉を聞いて、女の人は嬉しそうに笑った。
「やっぱり春馬君だ」
女性はにこやかにほほ笑みかけた。
「美帆が良く、あなたの話を聞かせてくれたわ」
「美帆を知ってるんですか……!?」
春馬の言葉に、女性は優しくうなづいた。
「もちろん。だって私はあの娘の……」
そこで女の人は一瞬口ごもった。
「知り合いだもの」
女の人はなんとかその言葉を口から絞り出した様だった。
「美帆がどこに行ったのかご存じですか?」
間髪入れずに春馬が尋ねる。
別に、美帆の言葉を嘘だと思ってるわけじゃない。
……でも、それでもなかなか信じられなかった。
「……まさか本当に月に?」
女の人は静かな笑みを浮かべながら答える。
「私は何も答えられないわ」
「どうしてですか……?」
「だって、あの娘が決めたことだもの。私が何かをいう資格はない」
そこで女の人は深く息を吸い込んだ。
彼女は、春馬の目を覗き込みながら続けた。
「……それでもどうかあの娘の言葉を信じてあげて」
女の人は縋る様な口調で言った。
そんな言い方をされては春馬も断るわけにはいかない。
それに何より……春馬は美帆を信じたかった。
「分かりました」
春馬が答えると女の人は嬉しそうに笑った。
「ありがとう」
それから女の人は木の根元に、使っていたオカリナを置いた。
美帆の使っていた物と同じように見える。
そしてその近くには綺麗な花束が置かれていた。
なんだかお墓みたいだな……春馬はそんな風に思った。
「……でもそんなことはどうでも良いか」
誰に言うわけでもなく呟くと、春馬は月を見上げた。
その向こうで美帆が自分を見つめてくれている気がしたから。
「元気でね、美帆。そしてどうか、またこっちに降りて来てよ」
作品名:月の彼方に 作家名:逢坂愛発