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てっしゅう
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novelistID. 29231
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愛されたい 第十章 新しい家族

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「おれと美咲はここから学校に通ったほうが便利だし、友達もこっちに多いから助かるよ。横井さんと母さんはしばらく二人で暮らしたらいいよ。半田のほうが仕事には便利だろう?」
「美咲はどうなんだ?」
「私は、有里さんと高志さんと一緒のほうがいい。一人は寂しいもの」
「そうか、じゃあ有里さんはどうなの?」
「横井さん、高志の意見にほぼ賛成です。この家の維持費は高志が大学を卒業するまで父が払う約束になっているので、食べることと消耗品だけお願いします」
「そうか・・・三人は同じ意見なんだね。智子は子供たちの意見をどう思う?」
「私は皆で暮らしたい。この家にあなたが来ることは憚られるでしょうから、新しく探して暮らせたら、その方がいいって思うんだけど無理かしら?」
「俺もその方がいいなあ。通勤に楽なように金山駅の付近でマンションでも探そうか?学校にもバスか地下鉄一本で行けるところで、どう?」
「おじさん、もったいないよ。母さんと二人で暮らせばいいよ。俺たちは大丈夫だから」

子供たちの大丈夫だからという気持ちに答えようと、横井も智子も少しずつ気持ちが変わってきた。

しばらく出来る出来ないの話し合いが続いて最終的に横井が判断したことにみんなが納得する形になった。

「ここの家はまだ君たちのお父さんが所有しているから、美咲や俺が勝手に出入りしたらきっと気分を悪くされて援助を止めるってなってしまうよ。別れた妻への援助だという気持ちがあるから払えるけど、俺がいたんじゃ払う義理なんて無いからね。やっぱり住む家を探そう。5人が暮らせる広さのマンションでいいじゃないか。もったいないなんて思わなくていいよ。その代わり俺も智子もしっかりと働くから、家のことは三人でやれるだけやって欲しい。それでいいだろう?」

「高志も有里もいいわよね?」
「解ったよ」二人ともそう言った。
「美咲もいいかい?」
「うん」横井にそう返事した。

家探しが始まった。休日に不動産屋を回る日が続いた。金山駅の周辺は商業施設も多く空き家は無かった。一駅向こうの神宮前駅も繁華街なので空き家は無かった。横井は通勤に車を使うから、智子を乗せて行けば通り道なので、電車の駅にこだわらずに環境の良いところを探そうといい始めた。名古屋市の南部には新興住宅街が出来始めていて買い物なども便利になっている場所があった。

「ねえ、行雄さん。滝の水は?」
「滝の水?」
「あそこならきっと新しくマンション建っているから探せるんじゃない?それに、バスで島田まで行けるから、高志と美咲ちゃんの学校へも不自由じゃないし。有里は逆に近くなるし」
「そうか、環境はいいところだからな。探してみるか」

高台になった滝の水公園の南側はまだ開発途中になっていて、たくさんの住宅が建設されていた。不動産屋に相談すると売り物から賃貸までたくさんの物件が紹介された。一つ一つ物件を見て横井は気に入ったマンションを見つけた。一戸建てのように見える二階建てのお洒落な建物がそれだった。傾斜の急な場所を利用してうまく設計されていた。智子は、「いいけど、高そうね」値段を聞くのが怖かった。

「ここでお値段いくらですか?」連れてきてくれた担当者に横井は聞いた。
「はい、ありがとうございます。両サイドの二戸が3500、中の二戸が3000になりますが、税別です」

二人は顔を見合わせた。

「どうする?智子」
「3000ね・・・今の家が売れたら楽だけど、直ぐには売れないでしょうから。ローンだってこの歳からじゃ厳しいわよね」

不動産屋の担当者がアドバイスをした。
「奥様、ローンのことですけど、失礼ですが25年の公庫(住宅金融公庫)は難しいでしょうけど、銀行ローンで10年返済をご利用していただければ如何かと考えますが、最初の資金をどの程度にお考えでしょうか?よろしかったらご相談させて頂けますか」
「そうですね、半分ぐらいは払わないとしんどいですわよね?」
「出来ればそうなさると後は月々15万円ほどですね。概算ですが」
「15万ですか・・・行雄さん、二人でなら払える金額だと思うけどどうかしら?」

横井は自分が全額払おうと考えていた。

「15なら無理じゃないけど、生活費もそれなりに要るから、ぎりぎりじゃないのか?俺が出すよ」
「えっ?あなたが全額払うって言うの?」
「それがいいかなあって・・・考えていた」
「私に半分は払わせて。そうでないと子供たちも肩身が狭いから」
「そんなこと考えるなよ。夫婦なんだよ」

アドバイスをした担当者は二人の会話を聞いていて何か事情があると感じた。

「こちらの物件は人気がありますので、すでに1戸を除いて検討中になっています。正式な申し込みをされている訳ではございませんので、お客様が申し込まれるようでしたら優先的に販売させて頂きますが」
「来週子供たちと見に来ますのでそれまで保留して頂けませんか?」
「かしこまりました。どちらの棟がご希望ですか?」
「右から二番目でお願いします」

横井と智子は支払いのことで話し合った。

「ねえ?聞いても構わない?」
「何をだい」
「3000のお金払うって言ったでしょ?貯金されているの?」
「そんなお金あるわけないよ。親に借りるんだよ」
「貸して頂けるの?大金よ」
「大丈夫さ。俺は貧乏だけど親はそこそこ金持ちだから」
「私と再婚するって言うのにお金出してくださるのかしら?」
「キミが気に入らないとでも言うのかい?」
「そうじゃなければいいけど。お義母さま、私のことどう思われるか心配ですから」
「じゃあ、この話を聞いてもらうことを兼ねて、家においでよ。両親に会わせるから。キミの家にも行かないといけないしね」
「ええ、そうですね。土曜日にでも伺おうかしら」
「それがいい。話しておくよ」

横井の父親は半田市役所に勤務して助役にまでなり、退職後は二期市会議員も勤めた地元の名士だった。今はすべてを引退して妻と二人で旅行三昧をしている。東京に嫁いでいる横井の姉は3歳上で正月ぐらいにしか帰ってこない。別れた妻との結婚は正直言って両親に反対されていた。家柄とか言うやつでだ。その反対を押し切って家を出て結婚したから、離婚して戻ってきてもそれほど怒られずに暮らせていた。再婚相手の智子は隣町だが、この辺では誰もが知っている老舗のいわばお嬢さんだ。親が反対する訳がないと横井には思えた。

智子はお金のことは親に頼めば出してくれるかも知れないと考えたが、身勝手に離婚した引け目もあってお金までは話せないと思った。不動産屋の担当者が言った銀行ローンについては、兄の長男が地元の信用金庫に勤めているので相談出来ると思いついた。横井が半分の頭金を出して、自分が残り半分をローンで払おうと決めた。

次の土曜日に智子は横井の家を訪ねた。両親ともに歓迎された。
「智子さん、よく来ていただけました。今日はゆっくりとお話しましょうね」横井の母親はそう言ってくれた。
「ありがとうございます。こんな歳でお恥ずかしいですが、横井さんについてゆきますのでよろしくお願いします」そう挨拶をした。
「智子さん、何を言ってらっしゃるの。あなたは可愛い方よ。香里さんとは大違い・・・こちらこそよろしく頼みます」