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てっしゅう
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愛されたい 第十章 新しい家族

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ムードは和やかだった。

横井の父は智子を気に入った様子だった。若い頃の育ちがいいので、仕草や身なりがきちんとしていること、言葉遣いが女性らしいこと、行雄のことを愛していること、それらが話していて直ぐに感じられたからだ。

「智子さん、子供さんは?」
「はい、長女が20歳で大学生、長男が18歳で高校生です」
「お二人ですか・・・行雄は美咲一人だけだから寂しいですわい・・・今からでも無理じゃろうか?」

行雄と顔を見合わせてなんと言えばよいのか言葉に詰まってしまった。すかさず横井は父親に返事した。
「お父さん!何てこと言うんだい。智子さん困っているじゃないか。謝ってくれよ」
「行雄!お前に聞いてないぞ。まだ智子さんはお若いからそう言っただけだ。いけなかったのなら謝るが、どうかな?」
「お義父さま・・・申し訳ございません。私は自信がございません。その事はお許しくださいませ」
「そうか・・・残念じゃのう。智子さんの生んだ子が見たかったなあ・・・」
義父はきっと年齢を見誤っているのかも知れない。嬉しいような、はっきり言うべきなのか迷っていた。

「話があるんだけど、頼み聞いてくれないか?」横井はお金のことを父親に話した。
「そうか、みんなで一緒に住む家を買うのか。お金はわしが出そう。その代わり智子さん約束していただけませんか。美咲は母親に見捨てられた不憫な子じゃ。あなたが本当の母親になってくれることでお金は美咲のために出そう」
「本当か?ありがとう。俺と智子のことを一番喜んでくれているのは美咲なんだ。美咲から智子に母親になって欲しいと言ったんだから。心配ないよ」
「そうなのかい?智子さん?」
「はい、まだ二人で決めかねていたときに美咲ちゃんから、聞かされました。とても嬉しく思いましたので良く覚えております」
「それと、あなたのご両親は間瀬なんといわれるのかな?」
「はい、父は仁志、母は多恵子と言います。私には3歳上の兄がいます。結婚しておじの会社で働いております」
「仁志くんか・・・そうか、あなたがご自慢のお嬢さんだったのか」
「ご存知でらっしゃいますの?」
「良く知っているよ。市会議員に立候補したときにお世話になったからね。商工会議所時代から仲良くしとったんだよ。お父さんに聞いてごらん」

意外な接点を見つけて智子は横井との出逢いを運命だと改めて感じていた。

智子はこの足で間瀬の家に行こうと横井に話した。この際だから着いて行って一緒に話したいと横井の父親は言ってくれた。三人を乗せた車が間瀬の家に着いた。

「智子です。話があってきました」
「どうしたんだい?急に来るなんて・・・」
「うん、横井さんとお義父さまとご一緒したの。入っていいかしら?」
「横井さん?もしかして泰蔵さん?」
「いやあ〜横井です、ご無沙汰をしております。仁志くんはご在宅ですか?奥さん」横井の父は泰蔵と言った。奥から仁志が出てきて、
「泰蔵さん!どうしたんですか?智子と何故一緒なんですか?」
「あなた中に入って頂いてお話しましょうよ」多恵子はそう言ってみんなを居間に通した。行雄は余りの家構えのよさに少し驚かされた。自分が好きになった女性がここのお嬢さんだったなんて、なんだか信じられなかった。

偶然だったのか、予感がしたのか、兄の長男が来ていた。智子の顔を見るなり、「叔母さん、お話し聞きましたよ。そちらの方が再婚相手なんですね」そう言ってきた。
「そうなの。よろしくね。でも偶然ね、あなたにお話があったのよ。ちょうど良かったわ」
「何の話?お金借りてくれるの?」
「まあ、銀行マンね・・・でもそうなの。後で話すわ」
「ほんとう?冗談じゃないだろうね?」
「決まっては無いけど相談したいから、待ってて」

智子は横井を正式に両親に紹介した。父の仁志は紹介された智子の夫になる男性が泰蔵の息子であったことにビックリしていた。もちろん多恵子も同じであった。

「智子が選んだ相手だから反対はしないけど、高志や有里は納得しているんだろうね?」仁志は気になって聞いた。
「はい、それは大丈夫です。しっかりと話し合っていますから」
「ならいいけど、行雄くんが泰蔵さんの息子さんだとは驚きました。これも縁なのかね・・・」
「仁志くん、そうだ縁だよ。きみにお世話になったお返しが出来ることが嬉しいよ。なあ、さっき話していたんだが、行雄と智子さんの新しい住まいを私が負担するから知っておいて頂きたい」
「智子、どういうことなんだい?」

横井の家で話したことを父と母に智子は説明した。

話しを聞き終えた仁志は泰蔵に半分は自分が負担したいと言った。そしてその言葉をさえぎるように智子は自分の考えを話した。

「横井さんにすべてをお願いすることは私の気持ちが許せないんです。身勝手に離婚して、今度は再婚するからと言って、お金までお父さんに頼むなんてしたくありませんから。マンションの費用は半分私がローンで借りて払います。ちょうど祐くんが来ているから、後で相談します。私も働いているので大丈夫です。そうさせて下さい」

祐くんとは伯父の長男間瀬祐一のことである。

「智子さん、お金なんか借りてはいけません。気兼ねするならローンを返すつもりで子供たちのために貯金してやってください。仁志くんには議員時代に大変お世話になった。恩返しをさせて頂きたい」
「泰蔵さん、それとこれとは違いますよ。私が半分出しますから、泰蔵さんの仰るとおりに智子は祐君のところで積立貯金を始めなさい」
「お父さん、ありがとう。わがままなことばかりして、ゴメンなさい」
「智子さん、ご心配は無用ですよ。仁志くん良く私に言っていました。娘の幸せのためなら何でもするって・・・それが父親って言うものですよ。行雄だって美咲のためなら何でもしたいって思うだろうから同じなんだよ」

こんな年になってまで両親に甘えることが智子は恥ずかしかった。子供の頃から何不自由なく育てられて本当の厳しさを知らなかったから簡単に甘えられるのだろうとそう思うことが口惜しくもあった。いまは、横井との生活が優先するから双方の親に甘えて、生活費だけは頼らないようにしなければならないと心した。話し終えて、智子は銀行マンの祐一に自分の給与振込口座から積み立て分を引き落としてくれるように頼んだ。

半田市からの給与振込みは祐一の勤める銀行の口座だった。半田に住むつもりだったからそうしたのが幸いした。

翌日子供たちを連れて滝の水のマンションを見に行った。外観を見て有里は「素敵」と叫んだ。美咲も「有里さんと同じ」と気に入ったようだ。高志は、「別に」と言った感じで、女性とは感覚が違っていた。横井はそれを笑って見ていた。