純愛 物語詩集 第一巻
僕は 濡れた身体で
優しく そして柔らかく
君を抱き締めた
それからそっと
君の唇を 奪った
頬に降り注ぐ小夜時雨
それは無味のはず
だが 仄かな甘い味がした
そして それは
無臭のはず
だが
まるで雨上がりのように
清々しい香りがした
五月の小夜時雨(さよしぐれ)
粒径は 0.4ミリメ-トル
そして 落下速度は秒速2メ-タ-
主成分は紛れもなく H2O
そこに微量の窒素を含ませて
無色透明のまま
それらは 真っ暗な闇の夜空より
さあ-さあ-と
僅かな音とともに
複雑に 交叉しながら落ちて来る
「これからは 僕が絶対に
君を幸せにしてみせるから」
僕は 君を受け入れ そして決意を伝えた
君はそれに コクリと頷いた
そして 君の涙が
無味無臭の性状のままの 雨に溶けて行った
作品名:純愛 物語詩集 第一巻 作家名:鮎風 遊