幽霊の足
思わずそう叫んだ直後、俺の腕を掴んだやつが居た。
「おいおい、源さん!なんだよ、そんなに蒼い顔しちまって。それに、なんだい。幽霊がどうとかって、どうかしちまったのかい?」
見ると山ちゃんだった。大分できあがった様子の山ちゃんは、そう云ってからも俺の腕を放さない。
「バカな亭主を持つと、女は苦労が絶えないよ。あんた、なにを云ってんだい。あたしにはこんなにきれいな足があるじゃないか。よく見てからそういうことは云うもんだよ」
カミサンは着物の裾をたくし上げて見せ、そのあとで笑った。
「だけどお前、それじゃあどうして、うちで死んでたんだよ!」
「なにをぐだぐだ云ってんだ。あんたもしつっこい男だね。あたしはここで見ての通り、百薬の長を、元気に飲んでるじゃないか」
「そんなこと云ったって、お前はしっかりと長屋で死んでたくせに、よくもそんなことが云えたもんだ」
「おい、源さん。あんた、とんでもない勘違いをしてるんじゃないかい?あんたのカミサンは、さっきからここに居て、機嫌よく酒を飲んでるんだ。死んでなんぞいるもんかい」